月刊競輪WEB|KEIRIN.JP
 誰もいない整備場。整然と並ぶ自転車が穏やかな光を浴び、まもなくウォーミングアップに訪れる選手を心待ちにしている。
 ここは競輪場。20代前半から50代の選手がファンの期待を背負い勝利を目指す舞台だ。醍醐味の一つは、ベテラン選手の老練の走りと若手選手の気鋭の走りが織りなす勝負の行方。さまざまな思いが交錯する舞台裏を写真で紡ぎます。
2019年12月 京王閣競輪場
「すべてが楽しいですね」
阿部 亮治
広島  64期
52歳  A級2班
「目標は佐古雅俊さん。そして打倒・大川龍二、弟子です」と明るく話すベテランは常に前向きだ。
来年還暦を迎える佐古を慕って10名ほどの選手が集まり、一緒に練習している。
「佐古さんのおかげで僕と弟子が今おる。弟子が先に行き出して、僕も2年になります。佐古さんのやってることを真似するだけ。それがきつくてできんのです。でも1日でも長く選手をつづけるために行ってます。結果が出てきてるんで」
原動力になっているのは小学2年生の娘。
「可愛いですね。若い時だったら競輪ばかりだったかもしれないけど、遅くにできた子なのでなるべく一緒にいたい」
参観日はもちろん、運動会は夜中から場所取りもする。
「家族あっての競輪。今は仕事も家もすべてが楽しいですね」


「まだ磨ける」
穴井 利久
福岡  65期
49歳  A級1班
地元出身の中野浩一さんの影響もあって選手を目指した。
「小学1年の時の作文にはもうそう書いていました。昔は全員1億円稼げると思ってたんで。あまかったですけど」
その後、両親が離婚し、苦労して育ててくれた母のためにも絶対に選手になると決めてがむしゃらにやって来た。
「若い時は勢いで結果が出たけど、今はそうはいかない」
競走得点が年頭から10点以上下がってしまった今年は選手生活で一番苦しかったと振り返った。しかし、そんな中でも光はある。専門的なトレーナーの指導を受けるようになって、まだ伸びしろがあると感じられた。
「あらっ!って。ここまでやっても全然自分をわかっていなかった。まだ磨ける、自分の可能性を感じられた。苦しいけど楽しいです。S級に上がれる位の気持ちで頑張りたい」


写真・文 中村 拓人