>>掲載記事一覧へ
 誰もいない整備場。整然と並ぶ自転車が穏やかな光を浴び、まもなくウォーミングアップに訪れる選手を心待ちにしている。
 ここは競輪場。20代前半から50代の選手がファンの期待を背負い勝利を目指す舞台だ。醍醐味の一つは、ベテラン選手の老練の走りと若手選手の気鋭の走りが織りなす勝負の行方。さまざまな思いが交錯する舞台裏を写真で紡ぎます。
2020年1月 川崎競輪場
「一勝できたら次に向かえる」
谷尾 佳昭
岡山  53期
57歳  A級3班
「負けることの方が多いけど次こそ勝ちたいと、すぐに次のレースに気持ちが進んでいく。そうして振り返ってみたら35年以上やっていました。そして負け戦でも一勝できたらまた次に向かえる。勝つのが一番の薬です」
今でも鮮明に覚えているのは、場内満員の中で勝ち上がった川崎記念決勝。時はバブルの頃だった。
「お客さんが当たったのか外れたのかようわからんけど、とにかくウォーッ、ウォーッて声がすごくて、コンサート会場みたいやった」
若い時にはプレッシャーはなかったが、家庭を持ち子供ができた30歳頃から、大事なお金を賭けてもらっているのだから期待に応えるように走らなければと感じるようになった。
「この先もやれるまでやります。悔いのないようにやり続けて、自分が経験して得たものを後輩たちに伝えたいです」
「ずっと先行していた方が格好いい」
磯村 蓮太
愛知  115期
22歳  A級3班
「ミーハーなんですけど、弱虫ペダルというい漫画を読んで自転車乗りたいと思ったのがきっかけです」
ネットで安いロードレーサーを買った。そして、たどり着いたのは競輪だった。自転車に乗り始めてからまだ四年半。
「奥が深い。師匠(佐藤亙)や先輩たちにいろいろ教えてもらっていますが、知らないことだらけ。でもそれが面白い」
休日には長距離で100km、時には200kmも走る。それがリラックス方法なのだと話す。
「ずっと徹底先行でやりたい。40歳、50歳でも若手相手に先行争いするような選手になりたい。歳をとっても頑張っている人はみんなやっぱりすごく練習している。僕も練習あるのみです」
なぜそこまで先行にこだわるのか聞いてみた。
「かっこいいから。ずっと先行していた方が格好いい」

写真・文 中村 拓人
>>掲載記事一覧へ