月刊競輪WEB|KEIRIN.JP
 誰もいない整備場。整然と並ぶ自転車が穏やかな光を浴び、まもなくウォーミングアップに訪れる選手を心待ちにしている。
 ここは競輪場。20代前半から50代の選手がファンの期待を背負い勝利を目指す舞台だ。醍醐味の一つは、ベテラン選手の老練の走りと若手選手の気鋭の走りが織りなす勝負の行方。さまざまな思いが交錯する舞台裏を写真で紡ぎます。
2020年2月 松戸競輪場
「練習が仕事」
平田哲也
兵庫 59期
54歳 A級3班
実家は自転車店を営んでいた。兄(雅章)も競輪選手。雨の日、練習ができなかったので店に部品を買いに来た元選手・橋本彰文さんの勧めもあり、競輪界入りを決めた。
「ただ、僕はあまり勝負事に向いていないんでね。師匠(藤野淳司)が厳しかったんで、練習はしっかりやれたけど。ピリピリしてないとダメなんですけど出来なかったですね」
S級でも戦ったが、厳しさに徹することができなかった。しかし練習はかかさずにやってきた。
「デビューの時に練習が仕事だと言われた。でも歳をとると結果がでないことが多くなってきたんで。毎日考えてます」
選手になって一番よかったと思うのは仲間の存在。
「僕は人見知りであんまり人としゃべられへんかった。でもいっぱい友達もできたし、同期も仲がいい。最近よく、倉岡慎太郎から電話がかかってくるんです。がんばれ、がんばれって。がんばっとるちゅうねん」
「リフレッシュは温泉とコーヒー」
板垣昴
福島 115期
27歳 A級3班
高校卒業時、競輪選手になることを周囲に反対された。
「なれるわけない、と言われて。それでもやりたくて働いて自分のお金で目指すから認めて欲しいと話しました。体も鍛えられると思って、自衛隊に入って三年間在籍しました」
四度目の受験で合格。ついに競輪選手への道を拓いた。競輪選手養成所としても知られている大谷トレーニングセンターで師匠(飯野祐太)と出会った。
「目標は先行で勝つこと。1日も早くS級に上がってG1で活躍したい。師匠と連携したいです」
リフレッシュは温泉とコーヒー。競輪参加中も持参した豆を挽いてコーヒーを入れ先輩たちにも振る舞う。
「先輩のアドバイスはすごく貴重なので、そうやって毎回聞くようにしています。そのおかげでようやくしっかり逃げる展開に持っていけるようになりました。」
コーヒーは成績向上にも一役買っているようだ。
「レースはいまだに緊張します」
石井孝
千葉 68期
48歳 A級3班
小中高と野球をやっていた。高校三年生の時、夏の大会の後に師匠(染谷登)を紹介してもらい弟子入り。
「スポーツはそこそこなんでもできたので自信があったんですけど、一瞬にして打ち砕かれた感じで、自転車ってこんなに苦しいのか、自転車ってやばいなって思いました」
ルーキーチャンピオンレースは選考順位10位で補欠だった。
「それがすごく悔しくて、そのメンバーよりも早くS級に上がることしか考えていませんでした」
もう一つ刺激を受けたのは千葉の偉大なる先輩たちの存在だ。
「滝澤正光さん、東出剛さん、鈴木誠さんら強い先輩たちが沢山いて、早く一緒に走りたくて頑張りました」
デビューから2年でS級へ。その後一度A級になったがS級に復帰し、40歳頃まで在籍した。
「レースはいまだに緊張します」
写真・文 中村 拓人