月刊競輪WEB|KEIRIN.JP
ベテランから偉大なるベテラン選手へ
佐藤慎太郎インタビュー
佐藤慎太郎へのインタビューを決めた理由の一つは、ナショナルAチームが沖縄合宿をすると聞いて、絶対、佐藤慎太郎はここに参加するはずだと狙いを付けていたのが一つある。そうなると、ナショナルチーム以外の競輪選手が初めてブノアベトゥコーチの指導を受ける事となり、競輪選手としてのトレーニングの感想が聞けると思ったからだ。
実際に現場に行ってそれを取材したかったのはあるが、今のご時世はままならぬところもあるので電話でのインタビューとなった。
また、2019年のKEIRINグランプリ覇者として今年に懸ける意気込みをインタビューした。
やはり、44歳の男は強かっこいい!
-ナショナルチームの沖縄の合宿に参加されたそうですが、何日くらい参加していたのでしょうか?
「10日くらいですかね。休養日も入っているので、実質は7日くらいですけど、トータルは10日くらいですね」
-ナショナル以外の競輪選手がナショナルAチームの練習に参加したのは初めてのことだと思います。
「ムリやりブノワにお願いしてですね、『練習に加わらせてほしい』と長い期間アピールしてきたので、僕の熱意が伝わったんだと思います(笑)
でも、一緒に参加させてもらうということで中途半端な気持ちでは失礼だなと思いましたし、ナショナルチームの一員になったつもりで、きっちり全てのメニューをこなそうという気持ちで参加させてもらったので、気合は入りましたね」
-まず、参加して、感想はどうでしたか?
「感想としては、こんな練習を1年通じてやっているなんて、コイツらは化け物か!?って感じですね。並大抵な、普通の選手じゃ、やっていけないよなっていう風に思いました」
-普段やられているとトレーニングと一番違うなっていうところはどこでしたか?
「身体に対するダメージが違いますよね。やっぱりチームとして動いていて、一切の妥協が許されない。例えば『脚の具合がよくないから1本やめておくよ』とか『腰に違和感あるからやめておく』とか、そんなことを言える雰囲気ではないですし、チームとして動いている分、チームの中の雰囲気を乱さないようなという気を配るし、何しろ、やっぱり(練習の)強度が高いです。和気あいあい楽しくできるような強度ではないです。本当に1本、1本集中して、1本に全力を出し切らなきゃいけないっていうのが数セット続く感じですね。それが毎日続いていくので」
-どのメニューが一番きつかったですか?
「メリハリをある程度つけているんだなと僕は感じたんですけど、それぞれ全部のメニューがインターバルも含めてきっちりと時間が管理されていますし、うーん、一番きついとなるとシッティング750mとか、あの負荷で、あれだけ重いギアで、あの距離っていうのは考えられないですね、あれが週に2回もあるなんて。しかもインターバルがきっちりしているから、もうちょっと休もうとか、もう少し回復するまで待ってとか、そういうのは一切許されないですから。チームの中でやるっていうのはそういうところも管理してやってもらえるので、妥協は許されないので素晴らしいですよね。
だから、ナショナルチームにいるっていうことは、あれだけのトレーニングをしてしまったら、家に帰っても家のことなんか何もできないだろうし、まして、休みの日だって家で良いお父さんの役割なんて大変だと思いますよ。そういう自分の個人としての部分を我慢して、犠牲にして、日本代表というものを背負っているんだなって思いました。
軽い気持ちでナショナルチームのことをとやかく言ってはいけないような気がしました」
-競輪選手として月に何本か競走にいって、あのメニューをこなすとしたらどうですか?
「あぁ、まぁ、ちょっとキツいんじゃないかと思います。調整をレースに行く前の1日、前検日を入れれば何とかなると思うんですけど、でも長いスパンで見ている訳なんで、レースに向けた練習を競走の前にだけ入れれば何とかすればと思います。ブノワはその辺を考えているんですよ。深谷(知広)と俺が、レースが近かったので(豊橋記念競輪)、ちょっと競輪のためにいいイメージをつけるようなメニューを入れてあげるよってことでやってくれたりしているので。
だから、なんていうかな、ムリだってさっき言いましたけど、月に2本っていうときついけど、月1本のGIとかGIIとかというなら十分に可能だと思います。月2本になっちゃうとトレーニング強度が落ちちゃうと思うので。せっかく計画的に積み重ねてきたものが、国内の競輪を走ることによってフラットになる、それだとちょっと効率が悪いかなと思います。それはできないという判断で今のナショナルチームは国内の競輪を走ってないと思うので」
-今回のトレーニングキャンプを経験して、今後の練習に活かしていこうかと考えていますか?
「メリハリがついているし、ロードとかもけっこう早いペースで行ったりして、短距離だからロードはそんなに踏まないだろうみたいな憶測もあったりしていたけどそんなことはなかったですね。ロードも積極的に行った方がいいなって思ったし、それと、パワー系のトレーニングをする時はカーボンフレームの方がいいなって改めて思いました」
-力の伝わり方というところですか?
「そうですね、(クロモリだと)3歩目、4歩目で一気に離されていくような場面が何回もあったので。練習の中にもっと効率を求めていこうかなって思いましたね」
-佐藤選手も練習の中にカーボンフレームを取り入れていくのでしょうか?
「はい、取り入れていこうと思います」
-トレーニングして、その後の豊橋はどうでした?
「やっぱり初日、2日目は疲れが(ちょっと)ありましたね。自分の中で想定はしていたんですけども、練習を見ていたブノワとジェイソンもそう言ってました。
でも、底上げじゃないけど、気持ち的に、今まで自分がやっていた練習なんてぬるいなって思いましたし、また改めて、もっと苦しい練習だったりとか、出力をあげてとか、効率だけじゃなくて気持ちの面のトレーニングもナショナルチームはしていたので、そういう部分もまだまだ強化していく余地はあるのかなと思いました」
-そういったトレーニングは1人で行うのは難しいのでは?
「1人ではできないんで、1人より2人、2人より3人だと思うので、幸い一緒にやってくれるメンバーが沖縄にいるので、引きずりこみたいと思っています」
-仲松勝太(沖縄 96期)さんが、豊橋記念はきついんじゃないかなって言ってました。
「勝太もずっとバンクに来て見ていたんですよ、潜入していたんで(笑)、なんで、仲間たちもナショナルチームの練習に興味をもっているので、一緒にやっていけると思います」
-引きずりこむと(笑)
「そうです!」
-ちなみに先ほどのトレーニングでシッティング750mのギア倍は?
「僕がチームの中に入った時には、まぁ僕も普段使っていたんですけど、その時は60×10とかでやっていたんですけど、鉄のフレームだとしなって力が逃げるんですよ。なんで、フレームがたわんで進んでいかないので逆に効率の悪い練習だったなと。ブノワと話をしたら『鉄でやるなら53×10とか下げた方がいいんじゃないか』とアドバイスをもらったのですが、下げるのもしゃくなんでカーボンのフレームでやります」
今年の目標はピークを作ってそこに合わせる。
-さて、今年1年はどんな風に戦っていきますか?
「基本的なスタンスは変わらず、目の前の1レース1レースを全力でということなんですけど、その中でも、年齢も年齢なので、いつまでも強くなっていけると思わないので、この辺で一発、トレーニングも新しいことにチャレンジしながら、うーん、難しいね、1戦1戦やっていくんですけど、時間がないので、どこかバシンと決めたところで照準を絞っていけたらいいかなと思います」
-ピークを作って、そこに向かっていく感じですか。
「そうですね。1戦1戦に集中するというのと、ピークを作るのは矛盾してきちゃうと思うんですけど、トレーニングの中でピークを作りつつ、気持ちで目の前のレースに向かう感じですね」
-今回のトレーニングキャンプを一言でまとめると。
「あれだけの練習していれば、それは強くなるのは当然だと思ったし、ナショナルチームのすごさをただただ感じた合宿でした」
-その経験を活かして、さらに佐藤選手は強くなりそうですね。
「身体がついていってくれればですね。でも、手応えはつかんでいるので楽しみにしていてください!」
一流選手は仕掛けどころを逃がさない!
-次に、レースについて伺います。最近は色々な地区の選手につくことが多いですが、そこは佐藤選手の追い込み選手の格がそうさせるのだと解釈していますが、その辺はいかがですか?
「そうですね、ただ、やっぱり、毎回、違う人と連携するのは難しいところもありますね。その選手のクセだったりとか、レースを見たり映像で見ていたりはするんですけど。そして、連携した選手が一生懸命頑張ってくれてありがたいんですよね。ただ、それは俺の前で走ってくれる同地区の自力選手が少ないということの裏返しだと思うので、できたら北日本の中で、あがってきてくれたらいいなと思っていますけど」
-豊橋記念決勝で松浦悠士選手の後ろをつきましたが、どうでしたか?
「勉強になることも多いですね。他の地区の一流選手につかせてもらっているので、松浦にしろ、平原(康多)にしろそうですけど、そういう選手の気持ちの強さや、レースの中で、レースにのまれないところを間近に見れているので、すごくいい経験をさせてもらっています!
そういう選手たちの後ろを走る時は、自分は後ろで息をひそめて、好きなように走ってもらえると勉強になることも多いし、いいレースになるんじゃないかなと思って、なので意見は言わないですね。ましてや地区の違う選手たちなので好きに走ってもらっています」
-その上で自分のできる仕事をして、抜ければという感じですか。
「そうですね、レースの中で自分のできることをできたらいいかなと思います。でも、やっぱり松浦とか平原とかすごくいい選手ですね!敵になると怖いなっていう感じです、一緒に走るとわかるけど」
-特にどういうところでしょうか?
「絶対に仕掛けどころを逃さないですし、自分がダメでも後ろに勝ってくれよっていうことがバシっとできるし、何がなんでも勝つという気持ちももちろんあり、でも、内容にこだわっているというのが後ろにいてすごくわかるんです。信念がすごく伝わってくるので、そういうところが強さなのかなっていう風に思います」
-今の若い選手にはあまり感じない?
「うーん、どういう形でも勝てばいいんでしょっていうレースをする若手が多いように思いますね。そうじゃなくて、僕が競輪ファンだったらこういうレースを見せてほしいのだけどって思うだろうなって。 僕はよくファン目線でレースを見ちゃうんですよ。例えば、若手が『今日はすごく野次られました』っていうことがあるけど、そいつは自分が2着とか3着だから怒られたって思っているんじゃないかと思うけど、お客さんは内容がよかったら2着、3着でも納得してくれるんですよね。だから、1着じゃないから怒られているんだと思っているんじゃないかと。養成所でどういう風に教えているか知らないから何とも言えないけど、何がなんでも1着を取らなきゃいけないって教えているなら納得だけど。
僕が古いのかもしれないけど、内容があれば2着でも、3着でもいいと思うんですよ。その辺が勝てばいいっていう風潮は寂しいですね。負けてもいいレースをした選手が称賛されるような。まぁ、お金が懸かっているからそうも言っていられないんですけど、競輪の深みというか、選手が勝ったその裏には、どんな他の選手の動きがあって勝ったのかとかそういうのをわかった方が楽しくなると思うんですよね。
選手はそれぞれ、そのレースの中で求められている仕事をしなきゃいけないと思うんですよね」
-ありがとうございました。最後にファンに皆さんにメッセージをどうぞ。
「ファンの皆さんの熱い声援が、毎日のモチベーションにつながっていますので、これからも競輪の応援をよろしくお願いします」