インタビュー

強さは偶然に生まれてくるわけではなく、それぞれが持つ個性の他にもトップ選手だからこその共通点は多々ある。近況、目覚ましい活躍を見せる池田勇人も、トップたりえる要素を数多く備えている選手のひとりだ。目まぐるしく状況が変わる競輪界において、池田は「適応力」を最大限に発揮している。
噛み合った大ギアと筋力トレーニングがブレイクを生んだ
 勝率53%、連対率71%。これは池田勇人の直近4カ月の成績(8月24日現在)だ。今年はグレード戦線でも上位陣と互角に渡り合い、ここまでのハイアベレージを残しており、まさに「ブレイク」と評価できる活躍ぶりだ。この好調を、池田本人はこのように分析している。
「仕掛けるべきところで仕掛けられているので、競走に関しては合格点だと思います。やっぱりギアが噛み合っているのが一番大きいですね。あとは筋肉トレーニングを昨年からやり始めて、それが繋がっているのかなと思います」
 大ギアがスタンダード化した現在の競輪にあって、この「仕掛けどころ」をしっかりと見極めることは、とても大事な要素となっている。レース後の談話を聞いていると、池田は勝ったときも負けたときも、そのレースのポイントをしっかりと把握しており、いかにレースの読みに長けているかが伺い知れる。
「スタートで取れた位置によって、先行なり捲りなり、どう組み立てを作るか。無茶に駆けたとしても、自分も活きないし、後ろのラインも活きないですからね。昨年くらいから、そういうレースが出来てきているかなと思っています。自分の中でやることを変えてはいないので、手応えが特にあったわけではないんですけど、結果は今のところ良いですね。いろんな人のレースを見ていますしみんな研究熱心なので、今のままで満足してしまったら、たぶん他の人がどんどん新しいことを見つけたり、自分が遅れてしまいますから。常に試行錯誤をしながら、練習内容もいろいろ試しています」
 その一環として始めたのが、筋肉トレーニングだった。今まで着手してこなかった部分にも、改めて目を向けた。
「肌で感じたというか、上位で戦っている人にダラしない体の人っていないんですよね(笑)。自分に足りないものはそこだなと。実は、昔から筋トレは嫌いだったんですよ。体に筋肉が付きにくい体質で、(効果が)現われなかったから好きじゃなかったんですけど、そんなことも言ってられないですからね。昨年の夏くらいからはじめて、ちょうど一年くらいになります。今では、久々に競走で一緒になった人たちには『体がでっかくなったね』と言われるので、自分で気づいていないだけで、ちゃんと現われてきているのかなと思っています」

6月の久留米記念決勝ゴール。
(7)池田が目標にしていた記念初優勝を飾る。
 肉体改造の成果も重なって、今年はグレードレースでも堂々たる「結果」を残している。6月の久留米記念では、豪快な捲りを繰り出して記念初優勝を達成した。
「記念優勝は今年の目標にしていました。それが久留米で出来たので、簡単ではないですけど、あれ?獲れちゃったという感じでしたね。決勝は、(坂本)亮馬のところが二段駆けでしたし、村上(直久)さんもデキが良かったので、勝ち上がってきたみんなにチャンスがあるという感じでしたが、自分はいつも通りで良いかなと。優勝はゴールするまで分からなかったです。(連係した)南(修二)さんもタテ脚がある方ですしね。でも、優勝したからといって特に変わったことはないです。獲ったからどうというのはなく、記念を獲ったから、次は何を目標にしようかと考えていましたね」
 もちろん次の目標は、「ビッグレースの決勝進出」。だが、これも勢いそのままに、8月のサマーナイトフェスティバル(GII)で実現する。決勝では、佐藤友和の捲りには屈したものの、脇本雄太や深谷知広らを相手に、主導権を握って3着に入線した。
「記念を獲れたから、次はビッグレースの決勝に乗ってみたいなと思っていたら、GIIですが、サマーナイトフェスティバルで決勝に乗れて。初めての(ビッグレース)決勝では、(岡田)征陽さんとは今年何回も連係しているし、いつもとまでは言えないですが、(佐藤)友和さんとも、ワッキー(脇本雄太)とも戦っているので、緊張はなかったですね。良いレースは出来たなと思います。このメンバーで走れるというのは、自分もちょっとずつ階段を上ってきて、一流選手と戦えるようになって来たということだし、楽しかったですね。次はGIの決勝が目標です」
「楽しい」という感情とともに、活躍をすればするほどもうひとつの感情が芽生えてきている。久留米記念の優勝者インタビューが特に印象的だったが、何度も何度も「感謝」という言葉を口にした。
「そうですよね。『感謝』、それが一番で、常日頃から思っているんです。選手になることができたのも師匠(黄金井憲)のおかげですし、やりたい練習を自由にやれるのも、練習グループの仲間のおかげですし、同年代の人たちとの絆、そういうのもありますね。私生活でも両親であったり、奥さんであったり。自分ひとりでやっているわけではないですから。昨年は鎖骨を折ったりしましたが(苦笑)、少しずつ前進は出来ているのかなと思います」
オールスターは関東地区を少しでも盛り上げていければと思っています
 9月には、地元・関東地区でオールスター競輪(GI・京王閣)が開催される。また、現在の賞金ランキングは15位につけており、グランプリ出場争いとしても、注目のシリーズとなりそうだ。
「(グランプリは)狙って出られるようなところではないですし、ここから先がまた難しいんじゃないかなと思っているんです。だから、今は全然考えていないですね(笑)。でもオールスターは関東地区の開催だし、関東で盛り上がって、ひとりでも多く決勝に乗れればいいかなと思っています。もちろん自分が獲りたいという野心は心のうちにはあると思うんですけど、それを出したところでビッグマウスになるだけだし、それは自分の中に秘めておいて、自分がやることをひとつずつやるだけですね。今の埼玉勢は平原(康多)さんをはじめ、藤田(竜矢)さんも記念を獲って良い雰囲気なので、そういった中で自分も少しでも盛り上げられれば良いですね」
 大ギア化も進み、目まぐるしく移り変わる今の競輪界。どんな状況になっても、常に対策を練って、流れを掴み、そして進化していく。そこが強さの根源になっている。池田は池田らしく、これからも突き進んでいく。
「僕は昔から、ギアをかけていた方が良かったタイプなんですよ。軽い回転だとみんなに太刀打ちが出来なかったけど(笑)、今はみんながギアをかけているから、自分がかけても、『かけすぎだな』とか言われることがない時代になったので、逆にやりやすいかなと思います。ギアがかかっているので、周回中も楽だし、競走以上に苦しいことは練習でやっていますからね。それに、みんなと脚はそんなに変わらないと思うので、展開とあとは気持ちの強さがどれだけ出るかでレースは変わってくると思っています。勝ちだけにこだわるとどうしても後手に回ってしまうので、変にこだわりすぎずに、何も考えていないような、流れに応じて競走するのが一番出し惜しみせずに、自分の力を出せるのかなと。自分から買ってくれる人は、レースの流れで7番手におかれてヒヤッとするかもしれないですけど、力勝負できることを第一に考えているので、ゴール線を駆け抜けるまでは車券を捨てないで、これからも温かく見守って下さい!」
池田勇人 (いけだ・はやと)
1985年5月12日生まれ、28歳。身長186㎝、体重95㎏、在校成績は3勝で51位、師匠は黄金井憲(54期)。練習は「午前は街道とバンクに行って、午後は筋トレ。筋トレが先なら、午後はバンクで馴染ませたり。でも、日々の疲れもあるし、計画を立てて合わせると体も疲れるので、練習出来るときはしっかりやって、疲れが出たら抑えてという感じですね」。