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平尾 一晃 長崎 A級2班
つかんだ初Vの、その先は

 人生は、巡り合わせの妙でできている。競輪はよく人生の縮図と言われるが、巡り合わせを組み合わせと置き換えてもいい。福井競輪場で10月23日から行われたS級シリーズ「ブルーサンダー賞」は、A級にも好メンバーがそろい激戦が繰り広げられた。最終日の25日、第8RのA級決勝戦を制したのが平尾だったが、この1、2班戦初Vの裏に、組み合わせの面白さが詰まっていた。
 平尾は2017年デビューの23歳。S級でも活躍した父・昌也さん(58期・引退)を追って輪界入り。父の弟子である井上昌己(86期)に師事。同県同期には、昨年の優秀新人選手賞を受賞した山崎賢人もおり、練習環境は申し分ない。「井上さん、荒井(崇博)さん、山崎さんらと練習していますが、とにかく何をやっても歯が立たない。最近は先行しても残れるようになって、力が付いている実感はあるが、S級上位は全然違います」と笑う。今年4月の広島でシェーン・パーキンス(ロシア)の自転車を見て、それに似せたフレームを作ったところ、これがぴったりマッチ。そこから成績が上昇しはじめた。
 迎えた今回の福井。準決勝は高橋築(東京)を相手に打鐘からロングカマシを放って3着に粘る。「高橋さんはバック20本。走る前から緊張していたけど、まくりで勝つのは無理だと思ったし、先行するしかないと決めていた」と、度胸一本で難局を突破。そして決勝戦。池野健太(兵庫)―鷲田幸司(福井)―白上翔(滋賀)、高橋―太田真一(埼玉)―旭啓介(神奈川)とラインができた。今岡徹二(広島)後位には重倉高史(富山)も色気を見せたが、結局連係せず。となると、平尾の心は揺れに揺れた。同期で仲のいい今岡に付けるべきか…。番手回りなら、チャンスは広がる。だが、デビュー以来、他人の後ろは回ったことがない。九州の先輩には「お前は自力選手やろ」と一喝される。結局「単騎で」のコメントに落ち着いた。
 決勝戦の号砲が鳴り、平尾がすかさず飛び出す。前受けかと思われたが、今岡を迎え入れて後位に入る。打鐘を合図に高橋と池野の激しい主導権争いとなり、平尾は最終ホーム9番手。2コーナーからまくって出た今岡が一気に前団に迫ると、池野後位から鷲田が抜け出して応戦。ところが直線、今岡にスピードをもらった平尾が、大外を一気に駆け抜けてVをさらった。決して目先の勝利にこだわったのではない。今岡にラインがあれば、他の警戒度も違っていたはず。"流れの中でたまたま"今岡後位にいたことが、最高の結果をもたらした。
 来期からはA級1班。ひとつきっかけをつかめば、一気にブレイクするのがこの世界。本来の戦いぶりではなかったにせよ、初優勝の事実は尊い。ラインがあれば、今回の準決勝のような競走もできる。バック18本と、数字上は積極タイプの平尾が今後、どう成長していくのかが楽しみだ。スケールの大きな走りで、いずれ師匠らのいるS級で暴れてくれるに違いない。


福井競輪場より