藤井侑吾 愛知 A級3班
ゴールデンキャップの誇りを胸に
じりっ、じりっと踏み上げて主導権を握る。誰かが抵抗すれば並走してへばり付き再度の踏み直しで先頭に立つ。強靱(きょうじん)な地脚を生かしたレースで9連勝の特別昇班を狙うが後一歩で届かない。19年7月のデビューからそんな戦いが続いた。
未完の大器だ。自転車を始めたのは大学の2年生から。競技をやってる意識もなかった。自宅からキャンパスへの自転車通学をしたのがきっかけだ。遠距離を走りたくてロードバイクに乗り出した。そんな時にアマチュアの自転車競技のチームに声をかけられて合流した。その中にプロレーサーで今の師匠である水谷良和さんを紹介された。それからピストに乗り換えて115期の試験を受けて合格するまで1年も満たなかった。学校でもメキメキ力をつけて200、400、1000、3000mの種目の基準タイムをクリアするゴールデンキャップを坂井洋とともに獲得した。かつて稲村成浩、小嶋敬二、武田豊樹らのそうそうたるGIタイトルホルダーを含む十数人しか達成していない。競技を本格的に始めた年数を考えれば驚異的な成長だった。
それでも同期の坂井はデビューから9連勝。2場所を経てさらに9連勝で早々とS級昇級を決めた。焦りがないといえばうそになる。「坂井は競輪学校時代からとにかく勝ちにこだわって追い込みばかりしてましたからね。あいつにはあいつのやり方があるし、僕は先行で力を付けてからS級に上がるつもり。同じ舞台で戦う時に勝てればいい。学校時代のあいつの20連勝を止めたのは僕ですから」とゴールデンキャップの誇りは胸にしまっている。
憧れは同県の深谷知広、それに自力で圧倒する脇本雄太の走りだ。大学途中まで競輪の存在は全く知らなかった。自転車を始めてテレビで土砂降りの京王閣バンクを、雨を切り裂くようにトップでゴールを駆け抜ける村上義弘の勝った12年のグランプリを見て感動した。「いつか自分もあの舞台へ…」。主導権を取り切れないダッシュ力、トップスピードの航続距離と最後の粘り、課題ははっきりしている。地脚をさらに磨き課題を克服しながら、ラインを引き連れて勝ち切る。先行選手として挑戦は始まったばかりだ。
名古屋競輪場より