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大石剣士 静岡 S級2班
先行で壁を突き破る
 壁に当たらない人生など、ない。大石は9月の向日町記念で3勝。うち2勝は、グランプリ覇者・佐藤慎太郎(福島)を付けての逃げ切り。確かな手応えと自信を持って臨んだ大石のGII初舞台・伊東「共同通信社杯」は、やはり甘くなかった。開会式で選手宣誓の大役が回ってきたこともあって、緊張が解けないまま迎えた初日一次予選・8R。残り2周の赤板から先制したが、宮本隼輔(山口)に最終ホームから強烈な反撃を食らい、9着。ビッグレースの洗礼を受けた。
 伊東で開催が決まった時から、出場を夢見てきたが、現実には遠かった。「今年の3月くらいまで本当に調子が悪くて、このままじゃA級に落ちるんじゃないかと…」。大舞台どころではなくなっていた時に、コロナ禍が競輪界を襲う。大石も出場予定の3場所を棒に振った。「開催が中止になったこともあり、開き直って練習量を倍に増やした。やれるだけやってやろうと」。その結果はすぐに出た。「共同通信社杯」選考期間ギリギリの、6月の西武園でS級初優勝。見事、地元GIIメンバーに滑り込みで名を連ねた。その後は白星を量産。「練習を増やして、スピードは付いたと思う。周りにも強くなったなと言われるようになりました」。持ち味の粘り強い先行力に、高いスピードが加わって、簡単にはまくれない、差されない選手になった。
 初日の大敗で心は折れかけたが、すぐに立て直せるのも若さゆえか。2日目4Rは最終ホーム7番手から一気のまくりで1着。地元ファンの声援に応えた。「よほどのけん制がない限りは行けると思った。自分は後がかりなんで。昨日は初めてのビッグで、しかも地元のプレッシャーもあって、最終ホームで脚はいっぱいでした。全然踏み上がらなかった。でも、今日は苦手な形になっても勝てた」と、レース後は笑顔も見せた。
 3日目は先行したがまくられ9着、最終日は最終ホーム7番手からまくったが、ブロックに遭い6着。「精神的にも肉体的にも疲れました」と、濃い4日間を振り返る。「2日目に1着取れたのはよかったが、初日と3日目は先行して残れなかった。最終日もいけそうだったが、まくりになった。自分は先行逃げ切りが一番得意な形なのに、それが通用しなかったので、満足はしていない」。思ったよりも壁は高かったようだが、大石は次の目標を定めていた。「今後は、コンスタントにビッグレースに出続けるのが大事になってくると思うし、それで勝ち方が分かってくる。そのための課題を克服できるように頑張りたい」。明日すら見えなかった頃に比べれば、今は走れる喜びもある。壁の高さは分かった。先行一本で、乗り越えてみせる。


伊東温泉競輪場より