田 典幸(熊本 117期)
自転車が好きだから
まず、その苗字「田」と書いて〝た〟と読む。「親族以外、この苗字の方に会ったことはありません。東北地方には〝でん〟と読む方がいると聞いていますが…」と、苦笑い。この苗字が全国区となる日が来ることを願わずにはいられない。
エリート軍団と呼ばれている117期、特に熊本では松岡辰泰、伊藤旭らがS級で活躍しており、まだ、チャレンジの田としては出世争いからかなり遅れている。そもそも競輪選手を目指したのが、大学在学時。競技自転車の経験もなかったのだから仕方なし。それでも、彼には強くなれる素質がある。それは「自転車が好き」だから。
大学に入学するまで自転車競技とは無関係な生活だった。「自分は旅好き。いろいろと旅ができるサークルに入ろうと思った時に出会ったのがツーリングサークルだったのです。自転車で各地を旅するノウハウを学べることができると思ったのです。楽しかったですよ。でも、ツーリングしていると、ロードレーサーと遭遇するのです。さっそうと駆け抜けていくロードレーサーをみて『かっこいいな~』思い、一度はロードレーサーを夢みた」という。しかし「現実に、ロードレーサーとして食べていくことは厳しいし、年齢的な限界も30歳と聞く、そこで競輪選手を目指そうと思った」で一念発起したという。
実際、競輪選手になってみると「練習は確かにきつい。でも、やりがいのある職業だと思っています」。昨年10月には落車に遭い鎖骨骨折で2か月の欠場に追い込まれるも「ロードをやっていた時代には落車しても鎖骨にヒビが入る程度だった。初めてポキッと折れました。競輪選手じゃなければあまり経験できませんよね」と、あくまでも前向きに捕らえている。さらに、旅好きの田にとっては「今は九州と四国が中心ですが、今まで行ったことのない土地に行けるのがうれしい。さらに競輪場の宿舎の飯がうまかったら、めちゃめちゃテンションが上がります」と、笑顔。天職に出会えたという感じだ。
昨年は2勝しかあげられなかったが、今年に入り5月31日現在で6勝をあげ、決勝戦まで勝ち進めるようになってきた。「同期は確かに強いし、置いていかれている感じですが、自分は自分として、コツコツやって行かなきゃと思っています。でも、自分は自転車が好きで競輪選手になったわけですから、頑張って強くなりたい。S級になると全国あっせんになる。楽しみが増えますよね」と、田。その歩みは遅くとも、確実に成長している。〝た〟という苗字が知れ渡る日を楽しみに待ちたい。
別府競輪場より