犬伏湧也 徳島 A級2班
徳島エースを狙え!
なにわのファンに圧巻の走りを披露した。冬の気配が近づく岸和田で、精鋭がそろう119期最強の呼び声が高い男が豪快な先行で駆け抜けた。21年11月7日からのFIはS級で最も衆目を集めた山口拳矢が準決の落車で欠場を余儀なくされただけに、A級の大物ルーキーの走りがさらにクローズアップされた。初日、準決と強烈な踏み出しからの先行で危なげなく決勝に進出した。決勝は、ホーム手前からの先行もラインを組んだ完全自力型の宗崎世連にピタリ追走されてゴール前で迫られたが、他のラインは完全に後方に置いていかれた。
「同期はもう3人がS級に昇級している。さすがにもう上がりたいですね」と話すが、焦りはない。5月デビューから11月9日現在まで34戦32勝、敗れた2本もゴール前わずかな差の2着。その強さをレースで存分に見せつけた。
デビューから順風満帆に見えるが、そのレーサーまでの歩みは決して楽なものではなかった。中学から始めた野球で頭角を現し、徳島の強豪生光学園の外野手としてその走塁と打撃を買われて4番を任されるまでになった。甲子園出場こそかなわなかったが、名門駒沢大学に進学してプロ野球を目指した。そこでは壁に阻まれ、大学は中退。同じ時期に知人の紹介で小倉竜二と知り合い、競輪選手になることを勧められた。祖父の小林峰夫さんが競輪選手だったこともあり、小さい頃から親しみはあったが野球を辞めるまでは興味の外だった。小倉の紹介で現在の師匠である阿竹智史に基礎から教わった。それでも養成所の入所は2度失敗。断念してトレーナーの仕事にも就いた。だが諦めきれず適性で3度目に入所がかなった。
「タイムも出てたし、入所さえすればやれる自信はあった」と在所1位の成績を残した。「大師匠の小倉さん、師匠の阿竹さんの前で早く走りたい。この道に導いてくれた2人には感謝しかない」。野球で鍛え上げられた瞬発力とパワーでS級の舞台での活躍に期待は高まる。「トップスピードには自信はあるけど、それだけではS級では勝てないのは分かっている。でも徳島には師匠を始め強いS級選手がたくさんいる。環境には恵まれています。経験を積んで強くなりたい」。野球では閉ざされたプロの道を競輪では大師匠、師匠が切り開いてくれた。その恩に報いるためにも、小松島の強い追い風に乗って徳島エースへのトップロードを突き進む。
岸和田競輪場より