第74回日本選手権競輪(GI)展望
第74回日本選手権競輪が静岡競輪場で開催される。脇本雄太、新田祐大らのナショナルチーム勢が久しぶりに参戦予定で注目を集めるが、近況の勢いから言えばビッグレースを連覇中の清水裕友と松浦悠士の四国コンビが優勢で競技組との真っ向対決が最大の見どころになるだろう。復調気配の浅井康太や総合力ナンバーワンの平原康多も侮れない存在で、もちろん地元・南関東勢の奮起にも大きな期待がかかる。
四国コンビの勢いが止まらない
脇本雄太が世界基準の走りを披露する
清水裕友と松浦悠士の四国コンビの勢いが止まらない。昨年11月の競輪祭決勝では清水-松浦の並びで松浦がGI初優勝、グランプリを挟んで今年2月の全日本選抜では松浦-清水の並びで松浦の逃げに乗った清水が番手捲りを打ってGI初優勝、そして3月のウィナーズカップ決勝では清水-松浦の並びで清水の逃げに乗った松浦が番手捲りでGII初優勝とビッグレースで3連続優勝を達成した。グランプリでは脇本雄太の逃げに後手を踏まされてしまったが、清水と松浦の2人は先行・捲りのスピードだけでなく自在戦も得意なだけに、今度こそは競技組を翻弄しての立ち回りで4連続のビッグ優勝をもぎとっていくだろう。
四国コンビの活躍に大いに刺激を受けているのが同地区の原田研太朗だ。全日本選抜では優出はならなかったものの準決進出、ウィナーズカップの準決では新鋭・高橋晋也の逃げを9番手から豪快に捲って1着で突破している。初日特別選抜予選では清水裕友とワンツーと、番組次第では清水や松浦悠士との連携も可能なのだからチャンスは十分だ。ウィナーズカップで2度連絡みを果たした松本貴治に太田竜馬、小川真太郎と四国にも若手機動力型が揃っているだけに勝ち上がり戦では有利にレースを運べるだろうし、悲願のタイトル獲得も夢ではないはずだ。
オリンピック出場枠を決める最後の舞台となった2月のドイツ・ベルリンでの世界選手権で脇本雄太はケイリンで銀メダルを獲得、見事に五輪出場枠を確保した。しかし、ご存知のとおりオリンピックの開催は1年間延期となってしまい、それが競技組のモチベーションにどんな影響を与えているかが不安材料のひとつと言えなくもない。それでも五輪は五輪、競輪は競輪であり、世界を股にかけるトップアスリートはしっかり気持ちを入れ替えて昨年のグランプリ同様の素晴らしい走りを見せてくれるだろうし、今の脇本がすんなり先行なら誰にも捲られないだろう。
脇本の参戦で意気上がるのは相性抜群の三谷竜生だ。昨年はグランプリ出場を逃してS級S班から陥落したが、今年は全日本選抜で優出と復調気配、2月の奈良記念では優勝はならなかったが二次予選Aと準決を捲りの2連勝で突破と自力脚も健在だ。村上博幸もウィナーズカップは準決で惜しくも4着と敗れたが、全日本選抜で優出と引き続き好調を維持している。年末のグランプリでは脇本に付けきれずに9着に終わっているだけに、今大会では何が何でも勝ち上がり、決勝で脇本との連携を実現させて汚名返上の走りを見せてくれるにちがいない。
清水裕友 山口 105期
原田研太朗 徳島 98期
脇本雄太 福井 94期
三谷竜生 奈良 101期
佐藤慎太郎を中心に北日本が結束力を見せる
南関東は一丸となって地元戦で奮起する
新田祐大は3月のドイツ・ベルリンでの世界選手権では決して満足いく結果とは言えなかったが、スプリントでは深谷知広とともにベスト8になりケイリンとスプリントの五輪出場枠を確保した。スプリントの予選の200メートルタイムトライアルでは9秒562の日本新をマークしており、今大会では脇本雄太と同様に世界レベルのスピードをまざまざと見せつけてくれるだろう。昨年のグランプリでは結果は4着ながら逃げる脇本を狙うというトリッキーな走りも見せており、今大会も新田の走り次第では再び佐藤慎太郎を始めとする北日本勢に大きなチャンスが巡ってくるかもしれない。
グランプリ覇者の佐藤慎太郎は2月の全日本選抜で決勝4着、3月のウィナーズカップでは準決で4着と敗れたが、逃げる新鋭・高橋晋也の番手で捲り迫る郡司浩平をきっちりブロック、おかげでビッグレース初出場で初優出の快挙を高橋にもたらしたのだから追い込み選手としては申し分のない仕事を果たしたと言える。新田祐大はもちろん新山響平、小松崎大地、渡邉一成、菅田壱道らの自力選手たちは佐藤が後ろに付いてくれれば勇気百倍で最高のパフォーマンスを演じられるはずで、今大会でも佐藤を中心に北日本の結束力を見せつけてくれるだろう。
南関東勢は残念ながらエースの郡司浩平が不在だが、静岡の渡邉雄太、神奈川の松井宏佑、千葉の岩本俊介らが奮起して地元ラインを盛り上げてくれるだろう。渡邉雄太は3月病気欠場中で体調面が気になるが、2月の静岡記念では準決を逃げ切りで突破ともちろんホームバンクとの相性は抜群だ。ナショナルチームに属する松井宏佑は競輪での出走が少なく経験不足が弱点だが、ウィナーズカップでは3走で主導権を取りきり、二次予選では逃げ切りで準決進出と健闘している。岩本俊介はウィナーズカップでは二次予選敗れたが、一次予選は捲りで1着、4日目特選は逃げて中村浩士とワンツーを決めており、その機動力はやはり侮れないものがある。
追い込み勢では和田健太郎が好調だ。全日本選抜の準決では目標の松井宏佑が行ききれなかったが、俊敏に四国ラインに切り替え、番手捲りで発進した松浦悠士を追走しての2着で優出を果たした。ウィナーズカップの準決も目標の郡司浩平が不発に終わったが、すかさず郡司をブロックした佐藤慎太郎のインに切り込み、ゴール前では佐藤ともつれ合いながらも2分の1車輪先着して3着に食い込み優出している。決勝は高橋晋也-守澤太志の北日本コンビを追走するも7着に終わったが、今大会も和田らしい巧みな走りでの優出を期待したい。
新田祐大 福島 90期
佐藤慎太郎 福島 78期
松井宏佑 神奈川 113期
和田健太郎 千葉 87期
平原康多が大きな走りで復活優勝を目指す
深谷知広が徹底先行で中部勢を引っ張る
平原康多は3月のウィナーズカップで落車して体調面にやや不安が残るが、2月の全日本選抜決勝では優勝には手が届かなかったものの山田英明の5番手捲りに乗り、直線伸びて2着とさすがの走りを見せた。1月の地元・大宮記念の決勝ではいつもどおりに好位置を取っての追い込みで優勝、3月の松山記念決勝では前受けの松浦悠士を打鐘で一気に叩くとそのままためらうことなく先行態勢に入り、番手追走の諸橋愛の猛追を振り切って逃げ切り優勝と貫禄の走りを見せた。昨年は無冠に終わった平原だが、今大会では松山記念のような競輪の第一人者らしいスケールの大きな走りで復活優勝を目指してくる。
浅井康太もようやく長いトンネルを抜けて復調してきた。全日本選抜は二次予選で敗れたが3日目特選と4日目特別優秀で2勝を挙げ、次場所のJ静岡記念では初日特別選抜予選が6番手からの捲り、二次予選Aも6番手から捲り追い込み、準決は3番手からの追い込みと浅井らしい多彩な戦法を駆使して3連勝で決勝進出を果たした。そして決勝では渡邉雄太ー郡司浩平ー岡村潤ー松阪洋平と4車並んだ地元ラインを7番手から強烈な捲りでねじ伏せて完全優勝を達成しており、本来の強さと巧さが完全に戻っていると見ていいだろう。
2月に豊橋で開催された全日本選抜では地元勢からの優出がなしと中部はこのところ元気がなかったが、深谷知広という強力なカンフル剤を注入されてどこまで勢いを取り戻せるかが見どころだ。深谷は昨年8月以来の競輪出走で、昨年は日本選手権、高松宮記念杯、オールスターとGIに3回出場しているが、とにかく逃げて逃げまくって日本選手権では決勝進出を果たしている。もちろん今大会も世界の舞台で鍛え上げた豪脚で逃げまくってくれるはずで、ここから中部勢の大反撃が幕を開くことになるだろう。
九州では山田英明が2月の全日本選抜で優出して復活を果たしている。タイトルに近い男のひとりとその実力を評価されていた山田だが、結局昨年は1度もGIの決勝戦に乗れず終わってしまった。その悔しさをバネに全日本選抜では一次予選が逃げ切り、二次予選も逃げて2着と気合いの走りを見せた。準決ではまたもや山崎賢人との連携を外してしまったが、あきらめずに踏み続けて2着に突っ込み18年6月の高松宮記念杯以来のGI優出を決めた。3月はあっせんをしない処置により競走はなかったが、4月の地元・武雄記念、そして日本選手権でのタイトル奪取を目指して再び好気合いの走りを見せてくれるだろう。
平原康多 埼玉 87期
浅井康太 三重 90期
深谷知広 愛知 96期
山田英明 佐賀 89期
思い出のレース
2015年 第68回大会 新田祐大 京王閣競輪場
新田祐大が6番手捲りで悲願の初優勝
浅井康太-金子貴志、武田豊樹-平原康多-飯嶋則之、新田祐大-大槻寛徳、原田研太朗-井上昌己の並びで周回。青板の2センターから原田が上昇開始、合わせて武田が3番手から上がって誘導を切る。その上を原田が叩いて主導権を握り、武田が3番手を確保、原田ラインを追っていた新田は武田ライン後位の6番手に入り、浅井が8番手となったところで打鐘を迎える。そのまま一列棒状で最終ホームを通過、そこから原田が全力でスパートする。最終1コーナーから武田が発進、合わせて井上も出て踏み合いになるが、武田が捲り切って井上は後退。そこへ新田が捲りで迫り平原がブロックするが、新田は踏みこたえてもがき続ける。さらに浅井も大外を強襲してくる。最後の直線に入ると武田が失速、番手から抜け出した平原に新田と浅井の3人が横並びでゴール線を通過するが、新田が微差で踏み勝ってシリーズ制のGIを初優勝、平原が2着、浅井がタイヤ差で3着。
表彰
ゴール
バンクの特徴
どんな戦法の選手でも力を発揮できる
捲り有利だが、カマシ先行も決まりやすい
どんな戦法の選手でも実力を発揮できるように設計された400バンクで、走路自体もクセがなくて走りやすく、力どおりの決着になるケースが多いバンクだ。基本的には先行が粘りにくく、捲りが有利とされている。
今年2月の記念開催の決まり手を見てみると、全47レース(ブロックセブン1個レースを除く)のうち1着は逃げが8回、捲りが19回、差しが20回、2着は逃げが5回、捲りが7回、差しが9回、マークが26回となっている。やはり逃げよりも捲りのほうが優勢で、先手ラインの選手が1着を取ったレースも11回しかない。
それでも実力を発揮しやすいバンクなので、スピード自慢の選手ならば後続を振り切っての逃げ切りも十分に可能だ。
3日目の準決3個レースでは10Rは浅井康太が3番手から捲って1着だったが、11Rは渡邉雄太が逃げ切って岡村潤とワンツー、12Rも郡司浩平が逃げ切って松坂洋平とワンツーを決めている。
先行は打鐘で先頭に立ってもすぐには駆けず、最終ホームまで流してからスパートするとゴールまで粘り込める。ただ流しすぎると別線に叩かれる危険性が高まるので、現在の競走形態からいっても理想はやはりカマシだろう。勝負どころでは後方待機でぐっと我慢し、打鐘過ぎから最終ホームを目掛けて一気にカマして主導権を奪い一列棒状に持ち込めれば簡単には捲られない。
捲りはカントがやや緩めながら走路が走りやすくスピードに乗りやすいので、力さえあれば後方からの巻き返しが可能だ。7、8番手なら最終1角から、4、5番手なら最終2角から仕掛けていけばきれいに決まる。ただ直線ではとくに伸びるコースがないので、遅めの捲り追い込みは決まりにくい。
同じように追い込みも直線では伸びきれないケースが多く、悪くても3番手以内にいないと連絡みは難しい。そのため2着の決まり手は半数以上がマークとなっており、ラインの選手同士によるスジ決着の出現率が高くなっている。
周長は400m、最大カントは30度43分22秒、みなし直線距離は56.4m。バック側の特別観覧席と選手宿舎の間から吹き込んでくる風のためにホーム。バックともに向かい風になることがあり、風の強い日は先行選手には厳しい。競りもルール上はイン有利だが、風のある日はバンクが重くなるのでインもアウトも互角に戦える。直線はとくに伸びるコースがないので、後方になった追い込み選手は早めの切り替えや追い上げが必須となる。