月刊競輪WEB|KEIRIN.JP
長編小説にも似る競輪ストーリー
競輪はドラマである。
それは僅か二分数十秒の物語であり、一年を通して織りなされるストーリーでもあり、幾年かを費やし結ばれる長編小説にも似る。
平成30年12月30夕刻、場所は静岡競輪場平成最後の競輪グランプリ。
真っ先にゴール線を通過した三谷竜生(奈良101期)の左手が控え目に挙がった時、ああ、すべては2年前の春の、あの出来事からはじまったのかもしれない。そんな感慨が筆者におこった。
2年前の春を詳記すれば平成28年3月13日。その日、名古屋競輪場でおこなわれた日本選手権競輪決勝において、賞賛に値する記録が生まれた。優勝した村上義弘(京都73期)は、名古屋で開催された日本選手権競輪3連覇を達成、通算では4回目の日本選手権競輪制覇となり、あの吉岡稔真(福岡65期・引退)の数字に並び、さらに同G1の最年長優勝記録もぬりかえてしまったのだ。そして、その偉業の影の功労者として一躍クローズアップされたのが、当競走で初めて特別競輪の決勝舞台を踏んだ三谷竜生だった。レースは川村晃司(京都85期)-村上義弘に任される大役ゆえ、赤板から夢中で逃げるだけの「初陣」と相なったが、川村の番手スパートを村上がとらえての優勝劇なのだから、「近畿に三谷あり!」のインパクトは、おそらくファンの記憶に、はたまた闘う選手達の記憶にも強く刷りこまれたに違いない。(もちろん別線の捲りをきっちり止め、内側から襲いかかる選手をも厳しく締め勝ちきった村上の凄味も、等しく忘れられないものとなった。)
この日、この時、三谷竜生は、村上義弘を中核とする近畿軍団の「仲間入り」をはたした。というのが、我が創作のプロローグである。
翌、平成29年5月の京王閣競輪場で第71回日本選手権競輪が開催される。近畿から只一人決勝に乗った三谷竜生には桑原大志(山口80期)のマーク。別線は深谷知広(愛知96期)-浅井康太(三重90期)、平原康多(埼玉87期)-武田豊樹(茨城88期)ら、格上の難敵ぞろいだったが、機敏な立ち回りで三番手位置を確保、直線一気に突き抜け念願のG1初戴冠を果たした。近畿の主役どころ不在のため、素にある競走センスを存分に発揮できたレースと記せば異論もあろうが、一年前に覚悟の「機関車役」を演じた漢に巡ってきた、「つぼみのような勝機」とでも表そうか。それを一発でものにした三谷竜生はやはり「持っている」漢だった。
平成30年の日本選手権競輪は平塚競輪場で実施され、ファイナルには近畿から4人が進出、世界のトップランカーに成長した脇本雄太(福井94期)を先頭に、三谷竜生-村上義弘-村上博幸(京都86期)と固まる近畿の布陣は、三谷の今までの「競輪」が認められた証左でもあった。結果は嬉しい三谷の日本選手権競輪連覇、以下村上義弘、脇本雄太、村上博幸と1着から4着までをラインで独占したのだから、当年のグランプリ戦線に於ける近畿の凄まじい「勢い」を誰もが感じたことだろう。
ひと月後の岸和田・高松宮記念杯も脇本雄太-三谷竜生でドンと逃げた。結果は三谷の楽差しで両者のワンツー(3番手の村上博幸はツキバテの態で着外)。三谷はG1連覇の栄誉を受ける。
8月のいわき平・オールスター競輪では脇本雄太が嬉しいG1初優勝を逃げ切りで飾り(近畿3番手を固めた村上義弘は無念の7着失格――ちなみに番手は大阪100期・古性優作で6着入線)、10月の前橋・寬仁親王牌は脇本-三谷の「捲り・マーク」ワンツーが決まり、今度は脇本がG1連覇の喝采を浴びることとなった。もう脇本-三谷の「大砲直列」を誰も止められない?
11月の小倉競輪祭は「脇本雄太G1三連覇!」の見出しが各紙に躍ったが、結果は浅井康太に逆転の差しを食い準優勝(近畿の援軍は不在で「脇本-柴崎淳(三重91期)-浅井」の連携だった)。が、「負けても強し!」と万人におもわせるような華麗な逃走劇であったことは間違いない。
平成最後のグランプリの舞台となった静岡競輪場。近畿4人の意向が大きく注目されたが、完璧な上位独占劇を決めた湘南ダービー(平塚の日本選手権競輪)とまったくおなじ並びに落ちついた。「1億円の肉体闘走」「最強の名誉を賭けた一発勝負」「1着以外は意味のない最高舞台」……そんな謳い文句が並ぶグランプリだから、近畿の4人結束を「意外」とおもう向きも少なくはなかったが、村上義弘・博幸の「腹」は決まっていた?彼ら2人(脇本と三谷)が居たから自分たちもここに居る!
本番――。迷うことなく脇本雄太がガンガン逃げる。番手は今や「指定席」同然の三谷竜生だ。2年前その三谷の奮闘により復活のG1優勝を成した村上義弘が3番手、黙々と4番手を固めるのは仕事人の村上博幸だ。5番手以下に清水裕友(山口105期)-平原康多-武田豊樹-浅井康太-新田祐大の隊列となり「あと一周」を通過。バック過ぎから捲った清水を三谷が牽制、呼応するように車を外に振った村上義弘が降りてきたところに、平原が内からはさみ入れたかたちで両者が絡み落車してしまう。ガシャーン!ワアー!!まるで場内のどよめきが合図ように?4角から三谷がメイチ一気に踏みこんだ。(完)