北京五輪の出場枠をかけた2008年世界トラック選手権自転車競技大会の最終日はイギリス・マンチェスター(ベロ・ドローム)で31日(現地時間30日)、男女4種目が行われた。
男子オムニアムは角令央奈(20=鹿屋体育大)が総合17位(スプリント200mタイムトライアル15位、スクラッチ18位、個人追い抜き15位、ポイントレース11位、1キロタイムトライアル14位)。女子ケイリンは佃咲江(22=北海商大)が1回戦6着、敗者復活戦でも6着に終わった。全日程を終了し、日本は男子チームスプリント、スプリント、ケイリン、ポイントレース、女子スプリントの男女5種目の出場枠を確実とした。マニエ監督はスプリント枠を獲得したことで「5人目の短距離選手」を新たに招集する方針を明らかにした。4月14日にUCI(国際自転車競技連合)から正式発表が行われ、5月7日に出場選手が決定する。
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【女子ケイリン1回戦、敗者復活戦】 |
スピードスケートから転向して4年目で五輪スプリント出場枠を確実にした佃は健闘したが、世界の壁は厚かった。1回戦は初周から最後方の6番手で周回を重ねた。誘導退避後に外を踏んで、一時は5番手としたが6着に終わった。敗者復活戦も苦戦した。スタートで3番手を狙ってアウトに付けたが「あれ以上は足を使いたくなかったし、その位置にこだわるつもりもなかった」と下げて、6番手。ポジションアップのタイミングを狙っていたが、世界のスピードの前に「力の差がありすぎた。踏んでいっても力が出せない」と、順位を上げることなく、佃の世界選手権初挑戦のレースは終了した。
すでに世界選手権Bで北京五輪のスプリント出場枠は確実だが、スプリントでも経験不足と実力差を目の当たりにした。それでも「初めての世界選手権で雰囲気にも慣れ、強い選手と対戦して、モチベーションあがった。もっと、いける気がする」と大きな糧をつかんだ。今後はスプリント中心の練習に専念。64センチの太ももが発するパワーでペダルを全開に踏み抜いて、初の五輪に挑む。
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【女子ケイリン決勝】 |
2年連続女王を狙った地元ペンドルトンをリード(米国)が撃破して、初の金メダルを獲得した。最終バックで先頭に立ったペンドルトンを地元ファンの大声援が後押し。連覇は確実かと思われたが、女王の外を並走したリードが直線から一気に勝負をかけてゴール寸前でかわし切った。
地元ファンの落胆を、新女王誕生をたたえるスタンディングオベーションがかき消した。「ペンドルトンに勝てるなんて思わなかったし、抜けるなんて思っていなかった」。リードは大歓声に笑顔で応えた。
4月20日に30歳の誕生日を迎え、短距離選手としてはベテランの領域に入った。「こんなに長く走ってきて、勝てるとは思わなかった。精神的に強くなければ続けてはこられなかった」。自らがつかんだ一足早い最高のプレゼントの重みをかみしめていた。
まさかの銀メダルに敗れた女王は、トレーナーに肩を抱きかかえられながら、チームのブースに戻ると床に倒れた。ドームの天井を見つめる、うつろな目とこわばった表情が失ったものの大きさを物語っていた。それでも成績の公式アナウンスが流れると、はね起きてリードに劣らない大きな拍手に両手を挙げて、応えた。
02年の10位以来、04年から4年連続のファイナリストとなったリードだが、同年の3位が最高だった。「どの選手もレベルが上がってきている。誰が勝つか分からない」と五輪本番をにらむ。今大会も含めてスプリント5年連続金メダルの女王ペンドルトンの五輪での巻き返しは必至。連続のケイリン王座の夢を絶たれた借りを返しにやってくる。迎え撃つリードら強豪との、し烈な戦いがマンチェスターから始まった。
 女子ケイリン決勝 |
 両手を挙げて 勝利の喜びを表すリード |
 女子ケイリン表彰式 |
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【男子オムニアム】 |
07年から世界選手権でも行われている競技、オムニアム。1日で200mタイムトライアル、スクラッチ、個人追い抜き、ポイントレース、そして1kmタイムトライアルを行う。長短含めた5種目でオールラウンドかつタフな力が必要とされるハードな競技だ。スクラッチで1位、200mで3位など全種目一桁台の安定した成績を残したのは優勝したヘイデン・ゴッドフリー(ニュージーランド)。「長い一日だったけど大切な日にもなった。僕らの国は決して大きくはないけど若い人たちもでてきているし、これから自転車を盛り上げたい」と熱っぽく語った。
日本の角令央奈は力の違いを見せつけられて17着と大敗。ただし世界選手権、そしてオムニアム初出場だったことを考えれば、これから先へのいい経験になったはず。「緊張のせいかもしれないけど思ったよりは疲れが出なかった」。まだ20歳と若い角は、初出場のタイトな競技もしっかりと走りきった。もちろん「世界との力の違いはしっかりと受け止めました」とも。「今回は悔しさすら感じることができなかったし次に出るときは『悔しい』と思う気持ちがわき上がるように。4月はアジア選手権を走ります。まずはアジアで1番になりたい」。今回の経験を糧に、ワールドクラスの選手への階段を駆け上がっていく。

世界選初挑戦の角 |
 優勝はニュージーランドの ヘイデン・ゴッドフリー (黒のユニフォーム) |
 男子オムニアム表彰式
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【男子1キロメートルタイムトライアル】 |
全22選手が1人ずつ1000mのタイムトライアルで順位を決定する最もシンプルで脚力の問われる競技。北京五輪から正式種目を外されたことで、多くの有力選手が参加を見合わせ、日本勢の出場者もいない。
最初に大歓声が上がったのは、4番目のマシュー・クランプトン(英国)。日本記録を上回る1分01秒822をマークすると、地元ファンはスタンディングオベーションで健闘を称える。トップが逆転したのは中盤で、13番目の21歳の新鋭ミカエル・ダルメイダ(フランス)が1分01秒514。後半は、UCIランキングトップの李文浩などのタイムこそ伸びなかったが、20番目で競輪ファンには国際競輪でおなじみのテーン・ムルダー(オランダ)が、1分01秒332の快走で優勝した。ムルダーは「1週間前に出場を言われたので、専用のトレーニングはあまりしていなかった。優勝できたことに自分でも驚いています。国際競輪も呼ばれれば喜んで参加しますよ」
 優勝のテーン・ムルダー |
 男子1kmTT表彰式 |
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【女子スクラッチ】 |
10km40周回を走り、フィニッシュを争う。ロードレースがトラック競技場で行われていると考えるとわかりやすい。世界選手権には、2003年から採用されている。また、スクラッチはハンディキャップなしで競技する意味で、中野浩一選手が10連覇した種目名(スプリント←スクラッチ1985年に呼称変更)を想像させるが異なる競技である。
レースは、数名のアタックが数回あるもすぐに集団へ吸収される。2名が落車するアクシデントでキャサリン・チートリー(ニュージーランド)が起き上がり再乗すると、マンチェスターのファンから温かい拍手が贈られた。33周目に、トリーネ・シュミット(デンマーク)とエレオノラ・ファンダイク(オランダ)がアタック。シュミットは力尽きるも、35周目からはエレオノラが単独で逃げる。後続の大集団が牽制し合う場面もありその差は縮まらず、昨年の覇者でUCIランキング1位のゴンザレス(キューバ)らを振り切って優勝した。「勝ったと確信したのは、残り100m位。4ヶ月前からトラックに専念して準備をしてきた。個人追い抜きは5位が最高成績だったけど、今大会で世界一になれて本当に嬉しい」と21歳らしい初々しさが印象的だった。
 優勝したエレオノラ・ファンダイク |
 女子スクラッチ表彰式 |
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【世界選総括】 |
オリンピックイヤー08年の世界選手権は開催国英国のメダルラッシュ。金メダルが9に銀メダルが2。特に金メダルの数は驚異的で、異様な強さで他国を飲み込んだ今回の5日間だった。ケイリンとスプリントを制覇したクリス・ホイはもちろん個人、団体追い抜きにマディソンのブラッドレイ・ウィギンズ、女子のスプリント、チームスプリントのビクトリア・ペンドルトンに個人、団体追い抜きのレベッカ・ロメロ。距離、性別に関係なく次々とアルカンシェルを獲得して、幅の広い強さを披露した。去年に続いてメダルの獲得数は1位をキープして盤石の態勢。8月の北京五輪もワールドレコードを更新した男子団体追い抜きのような圧倒的なスピードを武器にメダル量産を狙う。
それに対して日本勢は今回もメダル獲得はなし。93年のハーマル大会(ノルウェー)で吉岡稔真が男子ケイリンで銅をとって以降、15年連続でメダルゼロの結果となった。チームスプリントでは8位、男子スプリントは1/16決勝で全員敗退。マディソンでもわずかなポイント差で五輪の出場枠を逃してしまった。しかしもちろん希望もある。スクラッチで6位に入った盛一大や、決勝まで進んだケイリンの伏見俊昭がその光。「今回はすごく良いわけではないが、すごく悪いわけでもなかった」とフレデリック・マニエ監督もある程度は今回の戦績を評価している。確かに日本は男子チームスプリント、男子スプリント、男子ケイリン、男子ポイント、そして女子のスプリントの出場枠は得た。「枠を取れてほっとした」とマニエ監督は率直に語る。後は8月の本番までに、どこまで今回で痛感させられた世界との差を埋められるかが勝負だ。「まだ誰を、どのように呼ぶかは決めていないが、追加招集もある」。今回の奮闘により出場枠が増えて、さらにナショナルチームに厚みが増すことも考えられる。「英国やフランスは今回、さらにレベルアップしていた印象だった。それらの国を目指して私たちももっと上へと登り詰めたい」。北京五輪までもう残り5カ月を切っている。04年のアテネ五輪男子チームスプリント銀メダルがフロックと言われないために…。マニエ・ジャパンの戦いはこれからが正念場になるだろう。
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