レース展望

 第62回高松宮記念杯競輪(GI)が従来の開催地だった大津びわこ競輪場の廃止を受けて、今年は前橋競輪場で開催される。今年前半の競輪界をリードしてきた近畿勢と関東勢の激突が見どころだが、被災地復興の強い思いを胸に力走する北日本勢からも目が離せない。

近畿勢が優勝争いをリードする!

ダッシュ力に優れた新田祐大は前橋との相性抜群

村上義弘 京都・73期  高松宮記念杯のトライアル競走である西王座戦では村上博幸が優勝、日本選手権では村上義弘が優勝と、今年も村上兄弟率いる近畿勢は勢いに乗っており、今回も近畿勢が優勝争いをリードしていくのは間違いないだろう。
 近畿勢は地元開催のGIだった高松宮記念杯とは決して相性が良かったとはいえず、昨年の大会でも近畿勢からの決勝進出はなかった。しかし、今年は開催地が前橋競輪場に移ったことで、いい意味で地元開催のプレッシャーから解放されるのは好材料となるかもしれない。
 また、昨年の寛仁親王牌の決勝戦では新鋭・脇本雄太の先行に乗った市田佳寿浩と村上義弘がワンツーと前橋ドームとの相性も良く、今回も輪界のトップをひた走る近畿勢がスピードの違いを見せつけてくれるだろう。

新田祐大 福島・90期  東日本大震災後初のビッグレースとなった共同通信社杯春一番では北日本勢は1人も決勝に勝ち上がれなかった。
 被災地である地元を離れることを余儀なくされ、練習環境の面でも精神面でも大きなダメージを負った選手が多く、今しばらくは苦しい戦いが続くことになりそうだ。
 だが、SSシリーズ風光るで成田和也が優勝し、北日本勢の絆はより強くなったはずで、今回も数々の苦難に真っ向から立ち向かう力強い走りを一丸となって見せてくれるだろう。
 特に期待したのがダッシュ力に優れた新田祐大だ。昨年の寛仁親王牌では伏見俊昭、渡邉一成とともに優出と前橋ドームとの相性は抜群、今回も高速バンクで持ち味のスーパーダッシュを遺憾なく発揮してくれるだろう。

関東勢が結束力を見せつける!

戦法の幅が広がり、安定感が増した海老根恵太

海老根恵太 千葉・86期  海老根恵太は昨年の競輪祭で復活優勝を遂げてからずっと、高いレベルで安定した強さを維持している。
 共同通信社杯春一番では準決勝で敗れたが、一次予選は8番手から大捲りで1着、二次予選は捲った武田豊樹の外を鋭く追い込んで1着、4日目特別優秀は石橋慎太郎を目標に番手捲りで1着と3勝している。全選手が長期欠場明けで体調面やレース勘に不安を抱える中、海老根の出来の良さはひときわ光っていた。
 以前は捲り一辺倒だった海老根だが、近況は戦法の幅が広がってきて、どんな展開になっても自分の勝てる位置から仕掛けていくタイミングのよさは絶妙であり、今回も得意の自在戦法で勝ち上がっていくだろう。

深谷知広 愛知・96期  深谷知広は2月が斡旋停止、3月の日本選手権のあとも1カ月間、競走が空きすぎてしまってリズムを崩してしまったのか、共同通信社杯春一番はまさかの二次予選敗退に終わってしまった。
 しかし、えてして若手は体調管理に難があるものだが、立ち直りが早いのも若さの特権で、次場所の岸和田記念では勝ち星こそなかったが、連日の主導権取りでオール2着で決勝に勝ち上がっており、本来の積極性が戻っていた。
 若手は実戦で経験を積んでいくのがなによりの練習であり、今後もトップクラスとの対戦を重ねて深谷は強さを増していくだろうし、今回も徹底先行での活躍が期待できる。

武田豊樹 茨城・88期  輪界のトップをひた走る村上兄弟の近畿勢に真っ向から力で対抗できるのは、関東のエースの武田豊樹だ。
 日本選手権では準決勝で敗れたが、東王座戦は無傷の完全優勝、共同通信社杯春一番も関東4車の結束を利して優勝している。
 続く岸和田記念も決勝は村上義弘、海老根恵太、伏見俊昭らのS級S班が7人というGI並の豪華メンバーが揃ったが、深谷知広の先行を8番手から豪快に捲り切って優勝している。
 昨年後半から低迷状態が続いていた平原康多が1月の地元・大宮記念優勝をきっかけに復調してきているのも頼もしい。共同通信社春一番の決勝で平原を先頭に関東勢の結束力を見せつけたように、今回も平原と好タッグを組んで地元・関東勢をぐいぐい引っ張っていくだろう。

長塚智広 茨城・81期  勝ち星量産で直近4カ月の勝率が約7割と驚異的な数字をマークしているのが長塚智広だ。
 2月の松山FIで完全優勝を達成すると、日本選手権でも残念ながら決勝は失格に終わったが勝ち上がりは無傷の3連勝、共同通信社杯春一番も3連勝の勝ち上がりで準優勝と快進撃は止まらない。
 さらに次場所の西武園記念では4・17の大ギアとは思えない器用な立ち回りを披露、逃げた浅井康太の番手を奪ってからの直線抜け出しで優勝を飾っており、今回はいよいよ長塚のGI初優勝に大きな期待がかかる。

松岡貴久が自在な立ち回りで勝ち上がりを狙う!

井上昌己の捲りに全盛期のスピードが戻る

松岡貴久 熊本・90期  S級S班の坂本亮馬をはじめとする若手の活躍で九州が盛り上がってきているが、その流れの中にあって目覚ましいばかりの成長を遂げているのが松岡貴久だ。
 松岡は先行・捲りのスピードだけでなく、番手戦も器用にこなせる自在性も魅力の一つで、日本選手権の準決勝では逃げる村上義弘の3番手を奪取して追い込みの1着でGI初優出を決めている。
 続く共同通信社春一番も準決勝は村上義弘の先行を7番手から捲っての2着で勝ち上がっている。
 決勝は経験不足がたたって3着に終わったが、競走センスは非凡なものを持っているだけに、今後のますますの成長が楽しみな選手だ。

井上昌己 長崎・86期  九州の新世代の台頭に刺激されて、タイトルホルダーの井上昌己もようやく目を覚ましてきた。
 共同通信社春一番は準決勝で松岡貴久の捲りをきっちり差しての1着で決勝進出。
 次場所の西武園記念では決勝進出は逃したが、初日特選は巧みに平原康多の捲りを追走して2着、2日目優秀は平原康多、山崎芳仁、村上博幸らのS級S班を相手に中団捲りで圧勝、上がり11秒3の好タイムで全盛期のスピードが戻ってきている。今回も好位奪取から仕掛けられれば、久しぶりのGIタイトルが十分に狙えるだろう。

 中・四国は機動力の面で苦しい戦いが続いているが、石丸寛之に復調気配が見えてきている。昨年3月の落車の影響でリズムを崩してしまい、S級S班から陥落してしまった石丸だが、FIながら4月の高知で久しぶりの優勝、得意の捲りでの連絡みも徐々に増えてきている。

 三宅達也も今年は1月、2月と失格が続いてしまったが、近況は好走が目立っている。日本選手権では敗者戦ながら、4日目一般で上がり10秒9の驚異的な捲りを披露、5日目一般では先行して2着に粘り込んでいる。共同通信社春一番も二次予選で敗れてしまったが、3日目特選では深谷知広の先行を捲って小倉竜二とワンツーを決めており、調子は確実に上向いてきている。

高松宮記念杯の思い出
第57回 平成18年6月4日決勝 優勝 山崎芳仁
GI初優出の山崎芳仁が堂々の逃げ切りで初V!

 井上昌己―山口富生―山内卓也の即席ラインが前受け、目標不在の兵藤一也―坂本英一が中団、山崎芳仁―佐藤慎太郎―岡部芳幸の福島勢が後攻め、単騎の村本大輔が最後尾の並びで周回。打鐘過ぎに井上がペースを落として誘導から離れると、山崎がカマシ気味に仕掛けて先頭に躍り出る。井上は引かずに3番手の内で粘り、岡部と並走となる。山崎はいったんペースを緩め、最終ホームからスパートする。と同時に、兵藤も3番手に追い上げて、佐藤の後ろは大混戦となる。結局、3番手は兵藤が取り切り、最終バックは山崎―佐藤―兵藤―井上―山口―村本、井上の外に坂本―岡部―山内の並びで通過する。後方からの仕掛けはなく、最後の直線に入ってからは前3人での優勝争いになる、番手の佐藤が懸命に追い込み、ゴール寸前では山崎を交わしたかに見えたが、山崎がタイヤ差で佐藤の猛追を振り切ってGI初優勝、2着は佐藤、3着は兵藤だった。

第57回 平成18年6月4日決勝 優勝 山崎芳仁
第57回 平成18年6月4日決勝 優勝 山崎芳仁
前橋バンク335m
日本最大のカントを誇る超高速バンク
直線が長く、追い込み選手にもチャンスはある

 前橋は日本最大のカントを誇る超高速バンクで、ダッシュやスビードに優れた自力選手有利が定説だが、小回りバンクにしては直線が長めで走路自体も軽くはないので、追い込み選手にも十分にチャンスはある。
 昨年7月に開催された寛仁親王牌の決まり手を見てみると、全47レースのうち1着は逃げが8回、捲りが14回、差しが26回、2着は逃げが9回、捲りが7回、差しが18回、マークが12回で、昨年の大会では例年以上に追い込み選手の健闘が目立っていた。
 ちなみに全47レースのうち先手ラインの選手が1着になったのは25回で、やはり先手ラインの番手の選手が最も1着に近い位置にいるといえる。
 ただ、36度のきついカントを使って山おろしをかけると直線で外が伸びるので、先手ラインの選手が伸び切れず、中団で脚をためていた選手が先着するケースも少なくなかった。そのため、差し―差しや逃げ―差しといった決まり手の出現率が高くなっている。
 昨年の大会では最終バック9番手だった選手が2着に突っ込んできたレースが3回もあり、全レースの半数の24レースが別線の選手同士での決着になっている。

昨年の第61回高松宮記念杯競輪(大津びわこ)は(9)平原康多が優勝、第60回大会に続く連覇を達成した。2着は(3)神山雄一郎。
昨年の第61回高松宮記念杯競輪(大津びわこ)は(9)平原康多が優勝、
第60回大会に続く連覇を達成した。2着は(3)神山雄一郎。

積極性がなによりも大切だ
周長は335m、最大カントは36度、見なし直線距離は46.7m。屋内バンクでは風の影響を受けないので選手は持てる力を存分に発揮できるが、反面ごまかしがきかず、追い風によるアシストも期待できないので、先行選手にとっては必ずしも好条件ばかりとはいえない。またどんなに脚力上位の選手であっても、前へ前へと攻めていく積極性がないと不発になりやすい。
バンクレコード 9秒1 荒井崇博 07年7月2日
前橋バンク
前橋バンク