レース展望

 第52回朝日新聞社杯競輪祭が小倉競輪場で開催される。後半戦に入ってビッグレースを連勝中の北日本勢が優勢だが、現在絶好調の武田豊樹や、前半戦で主役を務めた村上義弘らの反撃にも期待が集まる。

山崎芳仁が再び桁違いのスピードを見せつける

山崎芳仁 福島・88期  今年前半は村上義弘を核とする近畿旋風が競輪界を席巻したが、7月・サマーナイトフェスティバルで成田和也が優勝したのを皮切りに、全日本選抜で佐藤友和、オールスターで山崎芳仁、共同通信社杯秋本番で伏見俊昭と北日本勢がビッグタイトルを独占、完全に風を呼び戻した。
 とくに4回転パワーが甦り、地元オールスターを上がり10秒9の捲りで圧勝した山崎の強さは驚異的だ。昨年1月の競輪祭も上がり10秒7で圧勝しており、今回もスピードの違いをまざまざと見せつけてくるだろう。

武田豊樹 茨城・88期 武田豊樹は全日本選抜、オールスター、共同通信社杯秋本番とことごとく北日本勢に敗れているが、現在は選手生活の中で最も乗れている状態といっていいほどの絶好調モードに入っている。
 熊本記念から新車に変えて車の伸びが一段とよくなり、熊本の初日特選では500バンクを堂々の逃げ切り、次場所の観音寺記念の準決勝でも逃げ切りと走りに自信と強さがみなぎっている。今回も関東勢を連れての逃走劇が十分に期待できる。

村上義弘 京都・73期 近畿勢も寛仁親王牌以後は北日本勢に主役の座を奪われてしまったが、村上義弘の気合い満々の走りは今も健在だ。
 全日本選抜での準優勝後はオールスターと共同通信社杯秋本番で優出を逃しているが、10月・福井記念が決勝5着、11月・観音寺記念が決勝7着と村上らしい走りでファンを魅了し続けている。

若手機動力型が育ってきて、九州勢にタイトル奪還の気運が高まる!

話題の新鋭・深谷知広の勝ち上がりに期待

松岡貴久 熊本・90期  地元・九州勢は昨年1月の大会では北津留翼と井上昌己が優出、11月の大会では坂本亮馬がGI初優出と若手が力をつけてきており、08年の井上昌己以来のタイトル奪還の気運が高まってきている。
 そんな若手のなかでも、近況の活躍ぶりがとりわけ目覚ましいのが松岡貴久だ。
 松岡はまだビッグレースでの優出はないが、オールスターでは二次予選で深谷知広の逃げを捲って準決勝まで勝ち上がり、共同通信社杯秋本番でも残念ながら準決勝で事故棄権となったが、ビッグ初優出まであと一歩のところまできている。10月・熊本記念でも準優勝と勢いに乗っている。

 坂本亮馬はオールスターの二次予選でゴール後落車、共同通信社杯秋本番の準決勝でもゴール後落車と不運が続いているが、8月・小田原記念では得意の捲りで4度目の記念制覇を達成している。
 落車の影響がやや気になるが、天性のダッシュ力から繰り出される捲りのスピードはまちがいなくトップクラス。競輪祭はGI初優出を決めた相性の良い大会で、地元ファンの大声援に後押しされて勝ち上がっていくだろうし、坂本や松岡ら若手の頑張り次第では加倉正義、大塚健一郎、紫原政文らのベテラン陣にもチャンスが訪れるだろう。

深谷知広 愛知・96期 深谷知広の優出にも期待がかかる。オールスターの準決勝では山崎芳仁の上がり10秒5の驚異的な捲りに屈して5着に敗れたが、番手追走の浅井康太の優出に貢献。共同通信社杯秋本番でも準決勝で8着と敗れたが、残り3走はすべて逃げ切っている。
 特に二次予選Aでの海老根恵太、新田祐大ら強豪相手の逃走劇は素晴らしく、弱冠20歳の新人ながら、ビッグレースの大舞台でも気合い負けすることなく持ち味の先行力を十二分に発揮できている。FIながら10月・小倉では逃げ切りの3連勝を達成しており、今回もS級S班勢を相手に必ずや大金星を挙げてくれるだろう。

 中部ではベテラン・小嶋敬二の一発も十分にありうる。今年の小嶋は低調でGI優出がまだないが、脚力的にはまったく落ちていない。それが証拠に、共同通信社杯秋本番の初日特選では山崎芳仁相手に逃げ切っているし、11月・観音寺記念の準決勝では平原康多の先行を捲っている。
 そして迎えた決勝では、武田豊樹と村上義弘を相手に今年初の記念優勝を達成した。
 これで賞金ランキングも20位にジャンプアップしており、S級S班キープに光が見えてきた。こうなると競輪祭での小嶋の大暴れは必至だ。攻めの一手で押しまくってくる小嶋の走りは、すでにグランプリ出場権を手にしている選手たちにとっては脅威となるだろうし、今年の競輪祭では小嶋が波乱の芽となりそうだ。

海老根恵太 千葉・86期 昨年のグランプリ覇者である海老根恵太も、前半戦の不振を乗り越えて復調ムードに入ってきている。
 オールスターが決勝3着、10月の地元・千葉記念が決勝4着と完全復活にはあと一歩足りない印象だが、賞金ランキングは11位でグランプリを狙える位置にいる。得意の捲りの破壊力は戻ってきているので、小嶋と同様に最低でも決勝進出を目標にグランプリ覇者の意地を見せつけてくれるだろう。

グランプリ出場へ向けて賞金争いが加熱する!

S級S班の座を懸けた争いからも目が離せない

 競輪祭終了とともに決着がつくグランプリ出場権を巡る戦いや、S級S班の座を懸けた賞金争いも興味津々だ。
神山雄一郎 栃木・61期 現時点でグランプリの出場権を手にしているのはGI優勝者の村上博幸、平原康多、市田佳寿浩、佐藤友和、山崎芳仁の5人。獲得賞金がすでに1億円を突破している村上義弘や賞金ランキング5位の武田豊樹もほぼ当確だ。北日本の固い絆に支えられて共同通信社杯秋本番を優勝、6位へと浮上した伏見俊昭も有力で、残るは競輪祭の優勝者か、上記の8人から優勝者が出た場合の賞金ランキング上位者の1名だ。
 そのため賞金ランキングで当落線上のぎりぎりにいる8位の山口幸二と10位の神山雄一郎の争いは熾烈そのものだ。共同通信社杯秋本番の終了時点では山口が上位だったが、10月・千葉記念の決勝で神山が3着に入って逆転、しかし11月・観音寺記念で今度は山口が決勝2着となり再び抜き返している。
 レースの1走ごとに抜きつ抜かれつを繰り返しており、競輪祭でもこの2人の走りからは目が離せない。神山は武田と平原という強い味方がいるし、山口も中部の分厚い機動力を目標にできるので、勝負の行方はまったく予断を許さない。
 また競輪祭は準優勝でも1千4百万円の賞金があるので、伏見が山口や神山に逆転されてしまう可能性も十分に残っている。
山口幸二 岐阜・62期  S級S班18名の座を懸けた争いも、17位の松岡貴久から30位の新田祐大までの14名が3千万円台で並んでおり、生き残りゲームは過酷だ。
 格と実力からいえばS班の永井清史、小嶋敬二、渡邉晴智らが最後の最後で底力を見せてくれそうだが、現在の勢いからいえば鈴木謙太郎、渡邉一成、斉藤正剛、新田祐大らの北日本勢の浮上が有力だろう。
 地元・九州勢の松岡貴久、園田匠、井上昌己らの地の利を活かしての勝ち上がりも十分に狙えるだけに、今年の競輪祭は見どころ満載の4日間となるだろう。

小倉競輪祭(GI)の思い出
第47回小倉競輪祭優勝 小倉竜二
平成18年1月29日決勝

 吉岡稔真―小倉竜二、加藤慎平―志智俊夫、佐藤慎太郎―岡部芳幸―有坂直樹、海老根恵太―佐々木龍也の並びで周回。赤板から海老根が上昇を開始すると、北日本勢も合わせて動き、海老根の番手はイン佐藤、アウト佐々木で競り合いになる。打鐘とともに海老根がペースアップして先行態勢に入ると、加藤も海老根の番手に追い上げてもつれにもつれるが、最終的には佐藤が番手を確保。最終2角から吉岡が捲っていくが、3角で佐藤の牽制で不発。海老根がそのまま逃げ切るかに思われたが、吉岡後位で脚を溜めていた小倉がぽっかり空いた中コースを一気に突き抜けて優勝、2着は海老根、3着には有坂が入った。

思い出
スピードタイプが有利な高速バンク
どんな戦法の選手でも平等に力を発揮できる

 前橋に次ぐ2番目のドーム競輪場として誕生した小倉バンクは、天候に左右されることなく、常にベストに近い状態で走れるのが最大の特徴だ。走路も軽くて走りやすく、タイムの出やすい高速バンクなので、スピードのある先行選手に向いている。
 ただ、追い風などのアシストを受けることができないので重く感じるという選手もいるし、カントがきつくて捲りも決まりやすいので、必ずしも先行有利とはいえない。
 昨年は競輪祭が1月と11月に2回開催されたたが、両大会の結果を比べてみると、決まり手の出現率にやや差が出ている。1月の大会では逃げ切りが10回、先手ラインの選手が1着になったレースが26回と先手ライン有利の傾向が強かったが、11月の大会では逃げ切りは5回、先手ラインの選手が1着になったレースも17回にとどまっている。
 ちなみに11月の大会の全47レースの決まり手を見てみると、1着は逃げが4回、捲りが17回、差しが26回、2着は逃げが7回、捲りが7回、差しが21回、マークが12回となっている。
 基本は先手ライン有利のバンクだが、トップクラスの選手たちが豪脚を競うGIではやはり基本どおりの結末というわけにはなかなかいかず、絶体絶命と思われた7、8番手からの捲りもけっこう決まっていた。
 特に印象深かったのは北海道のベテラン・斉藤正剛で、一次予選はバック9番手から捲って1着、準決勝もバック7番手から捲って1着になっており、無風の高速バンクである小倉はどんな戦法でも平等に力を発揮できるバンクといえるだろう。

昨年11月の競輪祭決勝ゴール。(2)平原康多が巧みなレースでV
昨年11月の競輪祭決勝ゴール。(2)平原康多が巧みなレースでV
小倉バンク
小倉バンク

 周長は400m、最大カントは34度01分48秒、見なし直線距離は56.9m。全国の競輪場のデータを参考に「走りやすさ」を追求して設計された小倉バンクは日本有数の高速バンクであり、06年7月の国際競輪でスペインのホセ・アントニオ・エスクレドが400バンクとしては最速の上がりタイムである10秒5を叩きだしている。