現在の競輪界は、深谷知広を中心に動いているといっても、異論のある人は少ないだろう。
武田豊樹、村上義弘といったビッグネームが弱冠21歳の深谷と真っ向からのパワー対決を挑んでいるあたりが、かえって深谷の凄さを際立たせる結果になっている。
共同通信社杯秋本番の決勝では武田が突っ張り先行に出て、武田が4着、深谷が9着。続く観音寺記念でも圧巻の逃げ切りの3連勝で勝ち上がった深谷だったが、決勝は村上の突っ張り先行に遭って4着、村上が9着だった。
今回も深谷を中心にシリーズが動いていくのはまちがいないし、厳しすぎる包囲網を深谷がいかに突破していくかが最大の見どころになる。
浅井康太は寛仁親王牌とオールスターの2つのタイトルを獲得して名実共にトップレーサーの仲間入りを果たした。
地元の共同通信社杯秋本番では4日間勝ち星はなかったが、決勝は目標の深谷が不発の展開から自力で踏み上げてタイヤ差の準優勝と強さを見せており、深谷とともに中部勢をますます盛り上げていく。
武田豊樹はGⅠ優勝からは遠ざかっているが、今年は東王座戦と共同通信社杯春一番を優勝、年間を通して高いレベルで好調を維持しており、年齢を感じさせない先行・捲りの破壊力は健在だ。今回も台頭著しいヤングパワーを相手に真っ向勝負を挑んで見せ場を作ってくれるだろう。
共同通信社杯秋本番では松岡貴久の捲りにスピードをもらった小野俊之が優勝、08年のグランプリを優勝した井上昌己以来の九州勢でのビッグ制覇となった。
坂本亮馬、松岡貴久、松川高大らの若手の成長に刺激されて大塚健一郎、小野俊之、合志正臣らの追い込み勢が切れ味を取り戻してきており、08年の1月大会の井上昌己以来の地元・九州勢による競輪王奪還が十分に期待できる。
松岡貴久は夏場にビッグレースでの落車が続いてやや低迷したが、共同通信社杯秋本番の初日特選では深谷知広―浅井康太―山口幸二の強力中部ラインを8番手から捲り切って1着、準決勝でも山崎芳仁―伏見俊昭―佐藤慎太郎の北日本ラインを相手に捲りで圧勝して小野俊之とワンツーを決めており、捲りのスピードが完全に復活している。
機動力の豊富さでは他地区の追従を許さない北日本勢も侮れない存在だ。
今年前半は東日本大震災の影響で振るわなかったが、それでもSSシリーズ風光るでは山崎芳仁の先行を目標に番手捲りを打った伏見俊昭を差し切った成田和也が優勝、全日本選抜でも山崎の先行に乗った伏見が番手捲りで優勝、佐藤慎太郎と福島ワンツーを決めて層の厚さを改めて見せつけている。
山崎は徐々に成績が上向いてきているが、本調子からはまだ遠く、年末のグランプリに出場するには本大会で優勝するしか道はなくなっている。
それでも山崎は競輪祭を過去2回制覇しており、09年1月の大会では上がり10秒7の驚異的なタイムで圧勝している。相性抜群の小倉バンクでの山崎の復活の走りがきっと見られるだろうし、山崎と連係する伏見や成田らの北日本勢に再び優勝の大きなチャンスが巡ってくるだろう。
北日本では佐藤友和が引き続き好調だ。佐藤は今年の優勝はFⅠ戦の1回のみだが、高松宮記念杯、寛仁親王牌、オールスターで優出と、不振の山崎芳仁の代わりに北日本勢を盛り上げてきた。
近況は得意の捲りだけではなく、先行や追い込みでの勝ち上がりも増えてきており、タイトルホルダーの仲間入りを果たしてから戦法の幅が広がってきたのが安定した強さの一番の要因といっていいだろう。オールスターの決勝では結果は3着だったが、武田豊樹や村上義弘と同様に、深谷知広を相手に突っ張り先行に出ている。今回も勝ち上がり戦などで北日本勢を連れての積極策がありそうだ。
近畿は後半戦に入ってから勢いが失速気味で、共同通信社杯秋本番では村上義弘が3日目特選で落車、村上博幸が初日特選で落車、市田佳寿浩が準決勝で落車とSSトリオにアクシデントが続いた。
それでもなお、今年は念願のダービー王に輝き、オールスターでは2年連続のファン投票1位に選ばれた村上義弘の、ファンの期待を裏切らない魂の走りは健在だ。
10月の観音寺記念では初日特選と準決勝を捲りで圧勝、2日目優秀は深谷知広に逃げ切りを許したが、決勝では突っ張り先行を敢行している。
今回も体調面で不安が残るところがあるが、いつもどおりの気力をふり絞って走りで我々ファンを魅了してくれるだろう。
昨年のグランプリ覇者の村上博幸が苦しんでいる。11月7日現在、賞金ランキングは18位でグランプリに出場するにはラストチャンスの競輪祭を優勝するしかない。
昨年もグランプリ覇者だった海老根恵太が1年間もがき苦しんだ末に競輪祭を優勝してグランプリの出場権を獲得したが、村上博幸にも同じような一発逆転劇が期待できるのだろうか?
村上は共同通信社杯秋本番では初日特選で落車し、二次予選Bで5着敗退となったが、4日目特選では稲垣裕之の捲りにスピードをもらい、4角手前からは巧みなコース取りでインに切り込んで1着と意地を見せている。次場所の京王閣記念でも勝ち上がり戦で2勝と、調子は決して悪くない。絆の固さは1番の近畿勢だけに、兄の村上義弘や市田佳寿浩らとの好連係が決まれば、グランプリの切符に手が届くことだろう。
昨年の競輪祭覇者の海老根恵太は賞金ランキングが12位でグランプリ出場の射程圏内につけている。共同通信社杯秋本番では準決勝で敗れたが、二次予選は追い込みで1着、4日目特別優秀は捲って2着と調子は上向いてきている。次場所の千葉記念や観音寺記念でもきっちり優出を果たしており、相性良好の小倉バンクで賞金ランキング9位の小野俊之や10位の佐藤慎太郎らと熾烈な賞金争いを演じてくれるだろう。
グランプリの当落線上にいる小野俊之や海老根恵太らにとって脅威なのは、賞金ランキング13位の兵藤一也、14位の神山雄一郎の関東勢の追い上げだ。
関東のエースの武田豊樹はGⅠ優勝はないものの賞金ランキングが5位で安全圏に位置している。
共同通信社杯秋本番の決勝ではグランプリでの対戦を見すえて深谷知広―浅井康太の中部ラインを相手に突っ張り先行を敢行しており、今回も年末の大一番に照準を合わせた走りに徹して、関東勢をぐいぐいと引っ張っていくことだろう。
小倉競輪祭(GI)の思い出 |
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第49回小倉競輪祭優勝 井上昌己
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軽くて走りやすい超高速バンク 無風の小倉バンクは先手有利が基本だが…… |
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前橋競輪場に次ぐ2番目のドームバンクとして誕生した小倉バンクは、天候に左右されることなく、常にベストの状態で走れるのが最大の特徴だ。走路も軽くて走りやすく、タイムの出やすい高速バンクなのでスピードのある先行選手に向いている。 昨年12月の競輪祭決勝ゴール。(1)海老根が勝負強さを見せた。 |
小倉バンク |
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周長は400m、最大カントは34度01分48秒、見なし直線距離は56.9m。全国の競輪場のデータを参考に「走りやすさ」を追求して設計された小倉バンクは日本有数の高速バンクである。自力型有利で、追い込みは3番手以内が絶対条件。直線は外帯線から1、2mのところを、外に膨れないように締めて回って追い込むとよく伸びる。 小倉バンク |