深谷知広は昨年の前橋の高松宮記念杯で史上最速のGⅠ初制覇を飾り、その後もGⅠ、GIIのビッグレースでは常に優勝候補の筆頭に挙げられるほどの人気と実績を得て、またたくまに輪界の頂点へと駆け上がっていった。
今年も2月の西王座戦を完全優勝、4月までの記念優勝が3回と、弱冠22歳の若武者ながら王者の風格さえ感じさせる強い走りを披露し続けており、今大会では当然ながら連覇の期待が高まる。共同通信社杯ではまさかの二次予選敗退となったが、厳しさが増すばかりの包囲網を深谷がいかに突破してくるかが今回の最大の見どころとなっていくだろう。
中部では小嶋敬二の破壊力も見逃せない。深谷よりも20歳上の大ベテランだが、4月までFⅠ優勝が7回と驚異的なペースで勝ち星を量産している。共同通信社杯では準決勝で7番手の展開となって敗れてしまったが、一次予選では別線勝負の柴崎淳や山崎芳仁らを相手に豪快に逃げ切っている。今回も展開負けさえしなければ、5年ぶり3回目の高松宮記念杯優勝が十分に狙えるはずだ。
東の王者・武田豊樹も共同通信社杯では深谷と同様に一次予選で落車のアクシデントに見舞われてしまった。やはり深谷同様に2月の東王座戦を完全優勝、4月の高知記念も完全優勝と充実の走りを見せていただけに残念な結果と言わざるを得ない。
武田のみならず、予選を2連勝で勝ち上がった木暮安由や神山拓弥、岡田征陽らも準決勝で脱落、関東からの決勝進出ゼロという結果に終わっているだけに、関東一丸となっての巻き返しに期待したい。
3月の日本選手権では成田和也が山崎芳仁とのワンツーでGⅠ優勝を決めており、昨年の大震災以来、関東や中部の勢いに押され気味だった北日本がようやく本来の強さを取り戻しつつある。
その北日本の上昇気流に乗ってホームバンク函館での必勝を期するのが菊地圭尚だ。
菊地は共同通信社杯では準決勝で惜しくも4着と敗れたが、巧みな捌きで先手ラインの3番手を奪取、成田和也の勝ち上がりに貢献しており、函館での初のGⅠ開催に向けて順調な仕上がりを見せているといっていい。
菊地のビッグレースでの優出は07年のオールスターの1回のみだが、地元ファンの熱い声援に後押しされて、必ずや共同通信社杯以上の成績を挙げてくれるだろう。
北日本では佐藤友和が復調気配だ。共同通信社杯では4日間勝ち星はなかったが、二次予選Aでは主導権を取った松岡貴久の番手に攻め込んで2着、決勝では思い切りのいい先行で渡邉一成の優勝に貢献と、得意の自在戦法が甦りつつある。今回も持ち味の勝負度胸とレースセンスのよさをたっぷりと披露してくれるだろう。
共同通信社杯で最も活躍が目立っていたのは近畿だろう。エース格の村上義弘と村上博幸はともに二次予選Aで敗れたが、それでも3人が決勝進出を果たして近況の充実ぶりを見せつけた。
決勝では残念なアクシデントが発生したが、勝ち上がり戦で最も注目を集めたのは脇本雄太だ。一次予選、二次予選は逃げて2着、準決勝は堂々の逃げ切りで、10年の寛仁親王牌競輪以来のGⅠ優出を決めている。
赤板からでも一切構わずにスパートして粘り込んでしまう強靭な逃げ脚は、今回も他地区の選手にとっては脅威となるだろうし、積極性と先行力に関しては深谷知広と互角、いやそれ以上といっても過言ではない。
稲垣裕之の動きも抜群だった。二次予選Bは深谷知広を叩いて先行して2着に粘り、準決勝は突っ張り先行の桐山敬太郎とのもがき合いを制して3着に粘っており、調子のよさが走りに自信と積極性を生み出していた。
村上義弘は二次予選Aで敗れたが、3日目特選で勝ち星を挙げており調子自体は悪くない。1月の大宮記念優勝、3月の日韓対抗戦の完全優勝など、冬場の激戦の疲れが出ただけだろう。今回までにはしっかり立て直してくるはずで、好調に後輩たちをリードして再び近畿を盛り上げてくれるだろう。
南関東の新鋭・鈴木裕が共同通信社杯で優出、日本選手権でのビッグ初優出が決してフロックではなかったことを証明してみせた。
圧巻だったのは準決勝の先行で、3番手に入った渡邉一成に捲られはしたが2着に粘り込み、絶好調の小嶋敬二を不発に終わらせている。
鈴木は昨年3月の前橋FⅠでS級初優勝、7月の地元・松戸で記念初優勝、そして今年に3月にはGⅠ初優出と急速に力をつけてきている。プロのキックボクサーという経歴の持ち主で勝負度胸もよく、今回も格上相手に強気の走りで見せ場を作ってくれる。
共同通信社杯では桐山敬太郎の好走も光っていた。準決勝は突っ張り先行に出て9着だったが、一次予選は柴田竜史の先行を目標に深谷知広の捲りに合わせて番手捲りを打って2着、二次予選は中四国ラインの3番手から直線伸びて1着、初日の深谷に続いて村上義弘、小嶋敬二を敗る大金星を挙げている。
海老根恵太は共同通信社杯は不出場だったが、4月の川崎記念は準優勝、次場所の松戸FⅠは完全優勝と復調気配で、今回も南関東が台風の目となりそうだ。
共同通信社杯では九州からの決勝進出はなかったが、勝ち上がり戦では井上昌己の伸びが鋭かった。一次予選では最終4角の4番手から内に切り込み、ゴール前では桐山敬太郎との踏み合いに勝って1着、二次予選Aでは3番手から外へ踏み、逃げ粘る脇本雄太を捕らえて1着、最終日の特選も小嶋敬二の先行を7番から捲って1着、上がり11秒1の好タイムで調子は上々だ。
直前の武雄記念でも決勝は4着だったが、二次予選と準決勝は連勝しており、今回も勝ち上がりが期待できる。
松岡貴久も井上昌己と連係した準決勝で6着と敗れたが、一次予選は7番手からの捲りで1着、5着権利の二次予選では思い切りよく先行して5着に粘り込んでいる。最終日の特別優秀でも村上義弘、神山拓弥らを相手に先行して大塚健一郎ときっちりワンツーを決めており、積極性とスピードの切れ味は健在だ。
高松宮記念杯の想い出優勝 小嶋敬二 第58回 平成19年6月5日決勝 |
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小嶋敬二が豪快に捲って4年ぶり2度目の宮杯V小嶋敬二-山田裕仁-岡部芳幸、佐藤友和-山崎芳仁-齋藤登志信、北津留翼-荒井崇博-合志正臣の並びで周回を重ねる。赤板2角からようやく佐藤が上昇を開始、打鐘で小嶋を抑えて先頭に立つと、続いて上昇してきた北津留を突っ張って一気にペースを上げる。北津留は車を下げるが、2Cで佐藤と接触して落車、そこに山田も乗り上げて落車してしまう。荒井-合志の九州勢は小嶋後位に切り替えるが、すかさず岡部が追い上げて番手争いとなる。最終2角で岡部が荒井を競り落とすが、同時に小嶋がスパートして岡部は離れてしまう。単騎の捲りとなった小嶋は山崎の牽制を乗り越え、最終3角で佐藤を捲り切って先頭に立つ。山崎が小嶋に切り替えるが、スピードに乗った小嶋との車間を詰めることができず、小嶋はほぼ独走状態のままでゴールイン、03年以来の2度目の高松宮記念杯優勝を飾る。山崎が2分の1車輪差で2着、岡部が3着に入る。高松宮記念杯の思い出 優勝 小嶋敬二 第58回 平成19年6月5日決勝 |
浜風の影響でバンクが重く、直線も長い |
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バック向かい風の日は捲りが決まりやすい
クセのない走りやすい走路だが、バンクは重く直線も長いので先行選手は苦しい。脚質的にはダッシュ型よりも距離を踏める地脚型のほうが向いている。 イエローラインの外が伸びる周長は400m、最大カントは30度36分31秒、見なし直線は51.3m。直線部分が南北方向に向いているうえに海に近いので、風の影響を受けやすい。そのため、海側の1センターに防風壁が設置されている。直線はイエローラインのやや外側が伸びる。2センターから我慢して外を踏むと、最後にもう一度伸びることが多い。インが重いので競りはアウトも互角に戦える。 |
昨年の高松宮記念杯(前橋) |
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昨年の第62回高松宮記念杯(前橋)では、(1)深谷知広が捲りで優勝。
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