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INTERVIEW S級S班独占インタビュー

伏見 俊昭

デビューしてから不調やケガなど挫折を感じた時期はありましたか?

競輪選手としてデビューして十数年の間、挫折は何度したかわかりません。その中で真っ先に思い浮かぶ一番の挫折は、シドニーオリンピックの代表選考に落ちたことですね。その後も骨折や怪我は何度もしていますし、落車が影響して成績が不調になったことも何度もあります。でも果たしてそれが本当のスランプだったのか。そういうのは結局みんな試練だと思うんですよね。そして、すべて含めて競輪人生だと思ってるんです。だから、挫折と言う挫折はシドニーの落選の時にしか自分の中では感じたことがないですね。あれは本当に辛かったですし、後にも先にも自転車を辞めたいなって思ったのはあの時だけです。

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そのときの状況を教えてください。

当時僕はナショナルチームに選ばれていて、そこからワールドカップ・世界戦と転戦しオリンピックの出場枠を取るために必死だった時でした。枠を取るまでに自分の中ではドラマがあったんですよね。世界と戦いながら苦労を重ねてオリンピックの枠をとる、と。

ところが、自分の手でもぎとったはずの枠を、最終選考会でコンマの差で負けてしまい逆転され選考から落ちてしまいました。もう一つの選考会では優勝してるので、自分の中に選考の基準への不満や疑問が出てしまって「なんで自分が選ばれないんだ」って。今考えれば、選ばれない要因はたくさんあった。でも、それを素直に受け入れられない自分がいたんです。それが24歳の時。あの時は、よく耐えて乗り越えたなと思います。もう、あんな経験はしたくない。あの当時にも戻りたくないですし、相当苦しみましたね。

挫折を感じてからのご自身の状態は?

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落選してから、最初の頃は気持ちも抜けちゃって練習はするけど身に入らない状況でした。練習してもオリンピックには出られないわけですし、何のために練習してきたんだろうって嫌になっちゃって。気持ちにポッカリ穴があいたまま、気持ちも入らずにただ練習してるだけっていう状況が1ヶ月ぐらい続きました。でも練習はやめなかった。当時はS級1班でしたし、その地位から落ちたくないって言うのもありました。練習をすることによって気を紛らわせるって部分もあったのかもしれません

そこからどうやって気持ちを切り替えたのでしょうか?

どうやって気持ちを入れるかって考えた時に、やっぱり自分で乗り越えなくちゃいけないんですよね。腐って、そのまま終わる人間は沢山いると思うんです。でも、それでいいのか、と。自分でかなり葛藤しましたね。周りの人間に支えられた部分も大きいですね。「頑張りましょうよ」「しっかりやれ」と、後輩や先輩に檄をとばしてもらったのもその時でした。そこで「オリンピックだけが人生なのか」と改めて考えてみたんです。何のために競輪選手になったのか、もう一度考えてみた。そうしたら、オリンピックに出るために競輪選手になったわけじゃないなって気がついて。競輪選手としての延長線上に、たまたまオリンピックというレールが敷かれただけだろうと。競輪の道を極めて、競輪で日本一になることを目標にして競輪選手になったんだって気がついたんです。そう思えるようになったのは、時間が解決してくれたところも大きいです

挫折を乗り越えるために必要なものはなんでしたか?

ひとつには、やはり気持ちの持ち方だと思います。そこで自分がどう捉えるか。なかなか難しい事だとは思います。つい「なんで自分がその仕打ちを受けなくちゃいけないんだ」と考えてしまうこともある。でも、良く受け止めて今後の自分の人生のプラスにするのか、悪く受け止めてマイナスにするのかは自分次第なんで。その気持ちひとつで乗り越え方が変わってくると思います。

つぎに、仲間に恵まれたこと。人間は弱い生き物なので、悪い事を考えてしまうとどうしても気持ちのうえで負の連鎖が絶えなくなってくる。でもそんな時に仲間と一緒にその悪い連鎖を打開した、僕は仲間に救ってもらったんです。

それから、僕にとって幸いだったのは、競輪選手は常にレースが待っていること。目先のレースもありましたし、オリンピックがだめなら日本の競輪で頑張ろうと。それで競輪で日本一になって、その自分をオリンピックから外したことを後悔させてやろうと思った。競輪があったからこそ、モチベーションにつながったんです

それがアテネオリンピック出場、銀メダルという快挙につながったんですね。

今から思えばそうですね。僕の場合は、オリンピックでやり残したことはオリンピックで返さなければという思いも強かったですから。何かを乗り越えれば何か得るものは絶対にあると思います。世の中はうまくできてますよ。嫌なことがあった時は、いいことが待ってます。でも、いいことがあると悪いことが起きたりもするので、そういう時は気を抜いちゃいけないなと気持ちを引き締めます。

もしかしたら、良い事は少ないのかもしれない。でも、悪いことを乗り越えてこそ良い事が待っている気がするので、悪いこともある程度は受け入れる。そして、すべてを自分でプラスに転化していきたいと思っているんです。

メンタルケアにも力を入れていますか?

ナショナルチームにいた時に、メンタルの先生がいたんです。だから、当時はメンタルの本も相当読みました。そのメンタルの先生にも毎日のように電話したりして。「考え過ぎないこと」「良いように捉える」「自分の考え方一つだ」。そういうことをその時に教えてもらった。今は、これ以上聞くことないですね。あとは自分次第かなあと。気持ちの切り替えさえできれば他には必要ないですし、気持ちの高め方や今何をすればいいのか今までの経験でわかってきた。そこに新しいやりかたを取り入れても自分の軸がぶれると思っているので、今から敢えて変えようとも思わないです。ぶれることなく、自分の中の基礎を大事にしようと思ってます。短所を変えよう、克服しようというよりも長所を伸ばす。その方が、自分にとってより効率的なんです。

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スランプに陥ったときのアドバイスがあればお願いします。

今僕がある競輪選手からもらった言葉で印象に残っている名言があるんです。

『神様は乗り越えられない試練は与えない』

某S級の現役選手から言われたその言葉だけは、ずっと忘れられない。競輪祭か何かで負けて控室ですごく落ち込んでたら、「伏見さん、神様は乗り越えられない試練は与えないですよ」って。心に刺さったと同時に、こいつカッコイイな~!と思った。俺が女なら、惚れちゃうなって(笑)。

言った本人は「あ、そんなこと言ったっけ?」って感じだと思いますけど(笑)。 実際、その言葉には本当に救われた。それ以来、今でも何か辛いことがあると思い出します。「あ、神がまた俺に試練を与えてる。乗り越えろと言ってる」と。で、「よし、頑張ろう」って思えるんですよね。そうやって自分を信じて前を向く事が大事なんでしょうね。自分との戦いなんですよね。自分を越えるのは自分しかいないですから。 。

伏見 俊昭選手・2011年のキーワード

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「前進」
常に前進ですね。後退はしないです。震災があって、この気持ちが以前よりも強くなりました。前向きに行かなくちゃいけないなっていうのと、何事も後ろを振り向いちゃいけないなって。とにかく前を向いて進みたいし、みんなにも進んでほしい。今、心の中にあるのは「前進あるのみ」っていう一言なんです。選手としては、GIとってグランプリ出るのが一番の目標ですけど、ベスト9に入れるようにとにかく前進していきます。