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INTERVIEW S級S班独占インタビュー

新田 祐大

自転車を始めたきっかけは何ですか?

小学4年生ぐらいの時に、友達に誘われたのがきっかけです。当時、マウンテンバイクが流行っていて、マウンテンバイクの大会にチームで出るのに人数が足りないから一緒に出ようって誘われて。その大会が、結果を気にせずみんなで楽しく走ろうって雰囲気の大会だったんです。それまで大会というものに出たことはなかったけど、すごく楽しかったんですよ。水泳とか他のスポーツもそれまでやってたんですけど、自転車は緊張感がなくて、みんなで走りきったという事が本当に楽しかった。それで面白くなってその後も大会に出たいって思ったけど、大会にどう出ればいいかわからなくて。親に調べてもらって、自転車の大会に定期的に出るようになったんです。

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競輪選手はいつ頃から目指し始めたのでしょうか?

小学校の卒業文集には既に「競輪選手になりたい」って書いてましたね。県立中学への進学が決まってたんですが、そこには自転車部がなくて。それでもどうしても自転車がやりたくて、小学6年生の時に自転車部のある高校について調べていくなかで「競輪」という存在にたどり着きました。それまでは知らなかったんですけど、そういう世界があるなら競輪選手になりたいなと思いました。スポーツが好きだったので、スポーツをして生活できたらいいなって憧れがずっとあったんです。水泳やスキーもやっていたんですけど、自転車が一番成績良かったんですよね。スポーツも結構お金がかかるので、そのうち親に「どれかに絞ってくれ」って言われちゃって(笑)。そこからは完全に自転車一本に絞りました。

高校時代はどのように過ごされましたか?

入った高校は、地元では結構有名な進学校でした。でも、自分はスポーツ推薦で入ったこともあって勉強は普通だった。そのうち、自転車も勉強もどっちも中途半端になってしまったんです。自転車もすごく強いわけでも弱いわけでもないし、勉強の成績も良くも悪くもない。大会に行くたびに勉強も遅れてしまう。そこで先生に相談したんですよ。そうしたら「勉強はなんとかしてやるからお前は自転車で頑張れ」って言ってくれたんです。その先生が「何をするために高校に入ったか言ってみろ」と質問するので「自転車を頑張りたいからです」って答えたら「それなら目標は決まってるだろ」って言ってくれて自分の進むべき道が固まりました。

その恩師は中野目(なかのめ)先生です。その先生の教え方が、無理やり何かを押しつけるんじゃなくて、最初だけ教えたらあとは自分の好きなようにやらせるっていう方法なんです。生徒が自主的に成長する環境を作ってくれるんです。実際、競輪選手になったら自分で練習を組み立てないといけないんですけど、自然とそういう流れを作ってくれてたのが今の自分に役立ってます。先生の教え子は他にも自転車競技の全国1位になったり、競輪界でも活躍したりしているんですよ、例えばS級S班の成田和也選手とか。

自転車一本の高校生活に見えますが、学校でも女の子から人気があったのでは?

いやいや、恋愛面は苦い思い出ばっかりですよ。笑い話ならいっぱいあります(笑)。自転車部って、バスケ部やサッカー部などの花形とは違って地味なんですよ。大会で活躍しても学校では目立たない。競技の恰好も、一般的には抵抗があるじゃないですか。身体にピタッとしたレースウェアにヘルメットで、カッコよさがない。高校に入学した時は、恋愛も始まったりするかもなんて胸ときめかせたんですけどね(笑)。綺麗だなって思う人が同じクラスにいたんですけど、ある日その人から電話番号を聞かれたんですよ。さらにそのあと呼び出されたので「ついに告白というものがくるのか!」って期待して、ワクワクして行ってみたら「きもい」って言われて終わりました。あれ、なんだったんでしょうね(笑)。

その前にも悲しいエピソードがあるんですよ。友達が「女の子紹介してやるよ」って言ってアドレスくれて、しばらくメールしていたんですよ。話も合うし、いいなあと思って意を決して、ある日電話したら男の人の声が聞こえたんです!ビックリしていたら「ごめんね、お兄ちゃん出ちゃった」ってメールがきた。で、紹介してくれた友達に報告したらみんな笑うんですよ。次の日電話したらまたお兄ちゃんが出たんです。またその友達に報告したら「今ここで電話してみれば」って言われて電話したところ、またまた「お兄ちゃん」。しかもすぐ横から声が聞こえるんですよ。なんと友達が喋ってて。つまり、からかわれてたんですよね~。そりゃあもうショックでした。架空の女の子とメールしてたんですからね(笑)。でも今となっては笑い話で、自分をからかった友達とも仲良くしてますよ。

競輪学校に入学してからは如何でしたか?

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競輪学校に入学してから立てた目標が「卒業する」だったんですよ。みんなは「在校1位」とか「練習を1回も休まない」といった目標を立てていたらしいんですけど。でも僕の目標は「競輪学校を無事に卒業して選手になる」っていうことだった。だから、在校中の成績にこだわるんではなくて、たまに無茶な練習も試してみたりしながら選手になった時の自分に照準をあてて調整していった。とにかく怪我なく無事に卒業して選手になることが一番の目標でしたから。だから、在校成績も悪かったですね。でも、競輪学校で1位になろうとは思ってなかったから気になりませんでした。競輪学校で結果を残すことだけが競輪選手としての成績につながらない気がしていたんです。

競輪学校の規則は厳しいと伺いますが。

確かに厳しいことも多かったですね。先生が竹刀を持って睨みをきかせてる、なんて光景も実際にありました(笑)。でも、1年間いろいろと勉強できたし、礼儀も学べてよかったです。ただ、自分は高校時代から、いろいろな自転車の情報を得たり、練習方法も調べたりしてたんです。当時の師匠がナショナルチームの監督だったこともあって、その練習方法についてもそれなりに知識があった。そうやって独自に得た知識と、競輪学校で教えてもらうことが違うのに戸惑ったり、消化できない部分もありましたね。

卒業してデビューしてからはいかがでしたか?

デビューしたら、優勝とかS級S班入りとかを目指すと思うんですけど、自分は最初の半年間は「競輪選手としての生活に慣れる事」が目標でした。もちろん、決勝に進んだり、優勝できたらラッキーだなとは思ってましたよ。でも、とにかく半年走って慣れて、その次の半年でS級とろうって決めてたんです。だから初優勝も遅かった。デビューが7月なんですけど、初優勝できたのはその次の年の4月。そこまでは全然活躍できなかった。まわりは特進したりGⅠに出場したりしていたので、早くそこに追いつかなくちゃって思いましたね。だから半年後からは練習も懸命にして追い上げた。その時期から、上を目指すようになっていきましたね。

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伺っていると、ご自身の目的意識がハッキリしていると感じます。

自分の中で決めてるやり方があるんです。まず大きな目標をたてるんです。そこに対しての年間目標を決めて、さらに月間目標、それから1日のスケジュールや目標を決めていくんです。そうしないと、おおざっぱになって結局結果が出なかったり、それで悩んだりしてしまうから。目の前の事しか考えないと、それが崩れた時に対処できなくなってしまうので、長い目で見て結果の良し悪しを判断したいんです。課題が達成できないときは焦ったりすることもありますが、改めて考える時間を持ったり、練習メニューを変えたりしながら反省点をみつけると意外と解決方法がみつかったりします。

この考え方はケガをした時にも応用できます。自分が目標に向かって人一倍努力して準備したという自信が持てていれば、ケガをしても強気でいけますね。例えば、高校時代インターハイのときもそう。直前に骨折してしまったんですが、結果は優勝。今までの努力の蓄積が自信となり、「怪我をしてもみんなと同じかそれ以上の力を出せる」って信じてたんです。去年の目標も、最初はS級S班になるというよりもGⅠの決勝に乗り続けるということでした。その目標が半分ぐらい達成できたかなと思っていたその先にS級S班があったんです。

現在の「大きな目標」とは具体的にどのような内容でしょうか。

S級S班になった以上、今年についてはまずグランプリ出場と言うべきところでしょうが、自分としては「今年の目標はオリンピック出場を目指す」という思いが強いです。オリンピックに出たいと言うのが僕の大きな目標で、競輪選手になったのもその想いがあったからこそだから。

オリンピックのための練習に重点を置くと、競輪の成績に響くかもしれないとは思います。でも自分の中では今はオリンピックに向けての練習をやらなくちゃいけない年だと思っています。来年2012年の夏、ロンドンオリンピックに照準を合わせ、自分の最高の実力を発揮できるようにしたい。なので、来年の3月ぐらいからだんだん調子を上げていく形で、GⅠにも沢山出場しながら、調整を図っていきたいと思っています。

ロンドンオリンピックの自転車競技強化選手に選ばれていますが、自信のほどは?

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世界の壁は高いですね。高校の時はジュニア世界選手権などに出場して10位以内に入ったりしたので、このままいけばオリンピックも行けるんじゃないかと思っていました。でも年齢制限の無くなった世界戦に行くとレベルが違った。

常にトップにいる人たちに挑むのは並大抵のことじゃないなと感じますね。世界で戦う人は自分の活かし方をちゃんと知ってます。小柄でもぶつかるのを怖がらずに、間に入って抜いていくとか、小柄な自分の体格を活かして戦っている。自分もパワーだけじゃなく自分の特性を活かして戦っていければと思います。

競輪と自転車競技との違いは?

トップスピードの違いですかね。競輪は70㎞/h出るか出ないかぐらいなんですよ。でも競技の競輪は70㎞/hオーバーは普通にある。それから、トップスピードを維持する距離が、競技の方が長いことが多いですね。だから闘い方も違ってきます。世界レベルで戦えるトップスピードが出せるようになれば、日本の競輪ではスピード的にはかなり有利になります。あとはどう仕掛けていくかの組み立て。だから、競技で鍛えていく中で、競輪も磨かれる部分が結構ありますね。

競輪の経験が自転車競技に活かされているところはありますか?

競輪はオフシーズンがなく、常に走り続けなくちゃいけない。そういう環境の中にいるので、精神的な波が出にくくなりましたね。常に勝負の世界に身を置いているメンタルの強さというか。もし競技だけだったら、負けた時に落ち込んじゃって次に影響しちゃうかもしれない。でも競輪は、負けてもすぐに気持ちを切り替えて次の試合に挑まなくてはならない。だからメンタル面ではだいぶ鍛えられたのかなって思いますね。その気持ちを競技にも活かせていると思いますし、活かしたいですね。

競輪での目標を教えてください。

最高峰の頂点レースであるグランプリに出ることがまず目標です。競技だけじゃなく、日本の競輪でも頂点に立てるようになりたい。

特に、S級S班になってから周りの見る目が変わったというか、見られてることが多いと感じるようになって自分の意識も変わりました。メディアに出る機会も増えましたし、喋る内容も気をつけなくちゃいけないと思うようになりましたよ。一番影響あったのがブログですね。例えば、成績がダメだったときに、そのダメだった気持ちをそのまま書いちゃうといけないなと思ってポジティブな気持ちに切り替えて書いたりして。どんな場面でも甘い考え方や姿勢は改めて、対応の仕方をもっと考えなくてはと思い、最近は意識して話すようになりましたよ。まだSSブログでは素の姿が出ちゃうことも多いですけど(笑)

新田 祐大選手・2011年のキーワード

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「成長」
「成長」です。2011年で成長を遂げて、自転車の内容を整理したり成績につなげたい。人と接する場面も多くなったので、会話とか話し方についても成長したいし、また成長できる年なんじゃないかなと思っています。どんな場面でも問題なく対応できるようになりたいですね