――誰でも壁にぶち当たる時がありますよね。アスリートの方もいろいろな壁を越えてきたからこそトップにいらっしゃると思うのですが、過去にスランプを感じたことはありますか?あります。スランプに陥ったと言えば、2010年後半にヘルニアを患ってしまった時です。これはデビュー以来、一番のスランプでしたね。頸椎ヘルニアという首のヘルニアだったんですが、右半身が痺れてしまうんです。首も動かせないし、練習もまともにできない状態でした。成績もひどかったと思いますね。本当に調子が崩れてしまっていました。
怪我で練習できない間も、気持ちだけは切らさないようにしていました。でも、やりたい練習が出来ないから、自分のレースができない。自分のレースが出来ていないから、結果もついてこない。全部が悪循環でした。ここで気持ちまで切れてしまったら、本当に終わってしまうんじゃないかという危機感があった。でも、多かれ少なかれスポーツ選手であれば誰でもそういう時期はあるものだと思って開き直ったら、だんだんとよくなっていきましたね。
ヘルニアは初めての経験だったので、どう対処すればいいのかわからなくて不安でした。でも、また上位グループで闘いたいと言う気持ちがとても強かったので、なんとしてでも復活しようと頑張っていましたね。まずヘルニアを良くするために、いろいろな人から情報を聞いて、医者や整体に通ったりして。できる限りの努力はかなりしました。そうやって目標に向かって治療やリハビリを続けていた甲斐もあって、年明けの頃からいい感じでできるようになってきたんです。年末のレースはあまり良くなかったのですが、何かがそのあたりで吹っ切れたんですよね。急に良くなったというよりは、一度いい感じを自覚したあと、そこから徐々に感覚が戻る感じでしたね。
やはり、気持ちが一番だったと思います。うまくできない時期があっても、気持ちさえあれば続けられます。でも一度諦めてしまうと、ダメになるのはあっという間です。調子の悪い時は嫌なループにはまってしまうので、何をやってもダメだと感じるかもしれない。でもその状況が永遠に続くわけではないと思うんです。自分がスランプから抜けられたのも、結局何がきっかけだったのかはわからなかったりする。でも、本当にちょっとしたきっかけが復活へのカギになったりするんだなというのが実感です。諦めて終わらせてしまうのは本当に簡単。その簡単さに負けず、諦めない気持ちを持ち続けることが、スランプを抜けるための大事なポイントなのではないでしょうか。
僕の場合は、スランプの原因が明確だったんですよ。怪我が原因だということがわかっているから、できないのはどうしてなんだろうと迷ったり、自分を責めたりしなくてすんだ。でも原因が分かっているからといって、すべて納得して受け入れられるかといったらそうではなく て、やっぱり不安とかジレンマとかは感じますよね。そういったネガティブなものに押しつぶされなかった自分の精神力の強さ。それを感じられたというのは、スランプの中で得たことなのかもしれません。最近では、原因に対してちゃんと乗り越えていこうと行動できる自分の精神力には、自信が持てるようになっていますね。